好きな言葉・詩

「なぜ 花はいつも」

なぜ花はいつも こたえの形をしているのだろう なぜ問いばかり 天からふり注ぐのだろう 岸田衿子『あかるい日の歌』、1979 この詩は実に不思議だ。「花」は「こたえの形」をしているという。 そして「問い」が「天からふり注ぐ」のだという。よく聞く話があ…

幽州台に登る歌(陳子昂)

幽州台に登る歌 陳子昂 前に古人を見ず 後ろに来者を見ず 天地の悠悠たるを念い 独り愴然として涕下る これは孤独をうたった詩だ。 人が人として生きる上で対面せざるを得ない絶対的な孤独と、その悲しみをうたった詩だ。 この詩のすばらしい点は、空間的な…

老子の思想と、人間臭い彼の嘆きについて

衆人は熙熙(きき)として、大牢(たいろう)を享(う)くるが如く、春の台(うてな)に登るが如し。我れ独り泊としてそれ未だ兆(きざ)さず、嬰児(えいじ)の未だわらわざるが如し。るいるいとして帰する所無きがごとし。衆人は皆余り有るに、我れ独り遣…

一つのメルヘン(中原中也)

一つのメルヘン 中原中也 秋の夜は、はるかの彼方(かなた)に、 小石ばかりの、河原があつて、 それに陽は、さらさらと さらさらと射してゐるのでありました。 陽といつても、まるで硅石(けいせき)か何かのやうで、 非常な個体の粉末のやうで、 さればこ…

新郎(太宰治)

新郎 太宰治 一日一日を、たっぷりと生きて行くより他は無い。 明日のことを思い煩うな。 明日は明日みずから思い煩わん。 きょう一日を、よろこび、努め、人には優しくして暮したい。 青空もこのごろは、ばかに綺麗だ。 舟を浮べたいくらい綺麗だ。 山茶花…

白頭を悲しむ翁に代わる(劉季夷)

白頭を悲しむ翁に代わる 劉季夷 今年(こんねん)花落ちて顔色改まり 明年花開いてまた誰かある 巳(すで)に見る松柏くだけて薪となるを 更(さら)に聞く桑田変じて海となるを 古人また洛城の東に無し 今人還(かえ)って対す落花の風 年年歳歳花あい似た…

黒い風琴(萩原朔太郎)

黒い風琴 萩原朔太郎 おるがんをお弾きなさい 女のひとよ あなたは黒い着物をきて おるがんの前に坐りなさい あなたの指はおるがんを這ふのです かるく やさしく しめやかに 雪のふつてゐる音のやうに おるがんをお弾きなさい 女のひとよ。 だれがそこで唱つ…

銀の滴(しずく)降る降るまわりに(知里幸恵)

梟の神の自ら歌った謡 「銀の滴(しずく)降る降るまわりに」 「銀の滴(しずく)降る降るまわりに、金の滴降る降るまわりに。」という歌を私は歌いながら 流に沿って下り、人間の村の上を通りながら下を眺めると 昔の貧乏人が今お金持になっていて、昔のお…

一粒の麦、もし地に落ちて死なずば、ただ一つにてあらん。死なば多くの実を結ぶべし。

一粒の麦、もし地に落ちて死なずば、ただ一つにてあらん。 死なば多くの実を結ぶべし。 『ヨハネによる福音書』(九十年代? 諸説有り)、第十二章 最近、友人(男)の母が亡くなりました。その訃報を聞き、私は強いショックを受ました。それからしばらくし…

さんたんたる鮟鱇(村野四郎)

さんたんたる鮟鱇 村野四郎 顎を むざんに引っかけられ 逆さに吊りさげられた うすい膜の中の くったりした死 これは いかなるもののなれの果だ 見なれない手が寄ってきて 切りさいなみ 削りとり だんだん稀薄になっていく この実在 しまいには うすい膜まで…

春と修羅・序(宮沢賢治)

春と修羅・序 宮沢賢治 わたくしという現象は 仮定された有機交流電灯の ひとつの青い照明です (あらゆる透明な幽霊の複合体) 風景やみんなといっしょに せわしくせわしく明滅しながら いかにもたしかにともりつづける 因果交流電灯の ひとつの青い照明で…

人間一般を知ることは、一人の人間を知るよりもたやすい

人間一般を知ることは、一人の人間を知るよりもたやすい ラ・ロシュフコー箴言集第六版(1693) 二宮フサ、1989訳出 岩波書店 この言葉は「ラ・ロシュフコー箴言集」におさめられている。 箴言とはいわゆる格言のこと。ラ・ロシュフコーはフランスの…

原爆小景、コレガ人間ナノデス(原民喜)

原爆小景 原民喜 コレガ人間ナノデス コレガ人間ナノデス 原子爆弾ニ依ル変化ヲゴラン下サイ 肉体ガ恐ロシク膨脹シ 男モ女モスベテ一ツノ型ニカヘル オオ ソノ真黒焦ゲノ滅茶苦茶ノ 爛レタ顔ノムクンダ唇カラ洩レテ来ル声ハ 「助ケテ下サイ」 ト カ細イ 静カ…

曇りなき眼(まなこ)で見定める(「もののけ姫」)

「曇りなき眼(まなこ)で見定める」 「もののけ姫」(スタジオジブリ、宮崎駿監督、1997年) スタジオジブリのアニメ、「もののけ姫」で、主人公アシタカが発するセリフだ。人気の高い作品なので見たことのある生徒も多いだろう。 最新の兵器である銃に…

いわずに おれなくなる(まど みちお)

いわずに おれなくなる まど みちお いわずに おれなくなる ことばでしか いえないからだ いわずに おれなくなる ことばでは いいきれないからだ いわずに おれなくなる ひとりでは 生きられないからだ いわずに おれなくなる ひとりでしか 生きられないから…

幽州台に登る歌

僕は昔、漢詩が好きだった。 多くの詩選集を読みあさったなあ。 日本の和歌も好きだけれど、日本の和歌にはないあの力強さ。 気持ちの良い直情! 書き下し文の調子の良さには、何にもかなうまいと今でも思う。 それらの中に一つ、忘れられない詩がある。 「…

SFの90%はクズである。ただし、あらゆるものの90%はクズである。

SFの90%はクズである。ただし、あらゆるものの90%はクズである。 〔スタージョンの法則〕 上は、「人間以上」などで有名なSF作家、シオドア・スタージョンがあるSFの大会で質問者との掛け合いの中から生み出したという言葉。 通称、スタージョンの法則。…

愛の対義語は無関心である

人は時に何かを紹介したくなる衝動に駆られることがある。僕は人間だからそれをやめられない。 心に響くことがあれば、良かったと素直に思うし、それをみんなに教えてあげたい。それはミッチリツレアウニンゲンの本能だし、きっとヒトが幸せに生きるこつだと…

たった一つの宗教しか知らないものは、、、、、、

「たった一つの宗教しか知らないものは、宗教を知らないものである」 マックス・ミュラー という文章を友達にコピーさせてもらったレジメからみつけた。 これは 「たった一つの言語しか知らないものは、言語を知らないものである」 というゲーテの言葉を発展…

文学部のA先生がおっしゃった、「文学研究は・・・

「文学研究は、その結果を自分の理解できるレベルまで落とし、自分の都合の良いように解釈してはいけない。文学研究の結果には真摯に向き合え。」 そうありたい。