白頭を悲しむ翁に代わる(劉季夷)
白頭を悲しむ翁に代わる
劉季夷
今年(こんねん)花落ちて顔色改まり
明年花開いてまた誰かある
巳(すで)に見る松柏くだけて薪となるを
更(さら)に聞く桑田変じて海となるを
古人また洛城の東に無し
今人還(かえ)って対す落花の風
年年歳歳花あい似たり
歳歳年年人同じからず
(現代語訳)
今年も花が散り、人々の容色も変化し衰えていき、
来年になって花は咲くが、今年の花をみたうちの誰が生き残っているだろう。
いままでに松が切られ割られて薪となったのを見たし、
また桑畑が海に変わってしまった事を耳にしている。
昔の人々はもはや洛陽の東の地にはおらず、
現代に生きる人々も、またこの花を散らせる風に吹かれている。
思えば来る年毎に花は同じような姿で花は咲く。
しかし毎年毎年その花を見る人々は同じ顔ぶれではない。
右は、「年年歳歳花あい似たり 歳歳年年人同じからず」という句で有名な「白頭を悲しむ翁に代わる」という漢詩の一部分だ。老い、そして死にゆく人間の運命を嘆く詩である。「世界のすべてのものは消滅して、とどまることなく常に変移している」というものの見方を無常観という。全ての生き物は死すべき運命にある。しかしだからこそ、限りある「生」は尊い。