桜が創った「日本」(ソメイヨシノ 起源への旅)

おすすめ!
桜が創った「日本」(ソメイヨシノ 起源への旅)
佐藤俊樹 2005 岩波


【内容、カヴァー折口より】
一面を同じ色で彩っては、一斉に散っていくソメイヨシノ。近代の幕開けとともに日本の春を塗り替えていったこの人工的な桜は、どんな語りを生み出し、いかなる歴史を人々に読み込ませてきたのだろうか。現実の桜と語られた桜の間の往還関係を追いながら、そこからうかび上がってくる「日本」の姿、「自然」の形に迫る。


【雑感】
 丁寧に文献をあたりつつ、丁寧に論を組み立てていて、非常に好感がもてる。
 タイトルで、本書の主張がズバッと身に入ってくる。現在の日本における桜の大多数を占めるソメイヨシノは、品種改良を重ねた末に、江戸時代末期に誕生した。そこを見れば、「日本(の美意識)が創った桜」といえるだろう。
 しかし、本書の主張はそうではないのだ。その逆なのだ。タイトルを見た瞬間に僕の中に圧倒的なイメージが沸きあがった。日本が桜を作ったのではない。『桜(ソメイヨシノの習性)が創った「日本」』なのである。


 ソメイヨシノがはやる以前、日本では一本桜、もしくは多品種による群桜が一般的だったという。一本桜を愛でる風習があり、また群桜でも、ソメイヨシノ以外の桜は、個体差が大きいため、同じ時期に同じように咲くという光景は、ソメイヨシノ誕生までなかったという。あっちの桜が咲いて散っては、こっちの花が咲く、といったように、長期間にわたり、ぽつぽつと咲いていたのだ。また、花と葉を同時につける品種もあった。
 ごく短い期間、十日間くらいに、鮮やかな花だけが一斉に一面に咲き、そして散る。これはソメイヨシノの生み出した光景なのだそうである。


 筆者の主張はこれ以降がおもしろい。ソメイヨシノのこの咲き方、ソメイヨシノの生み出した圧倒的・特異的美的風景は、日本文化のはぐくんだ理想と照応し、また、過去の日本の風景に照射し、日本のかつての風景を、「桜は昔から一斉に一面に咲くもんだ」というふうに、私たちの意識の中でつくり替えてしまったという。この発想がすごいし、鋭いと思った。


 丁寧にまとめられている記事があったので、参考に。
http://sci-tech.jugem.jp/?eid=1177


【メモ】
ソメイヨシノが広まることによって、ソメイヨシノの咲き方に特にあう言説が選択的に記憶され、『昔からこうだった』と想像されるようになる。いわば想像が現実をなぞっているわけだが、義政や芭蕉や東湖の句はもう一つ重要な事実を教えてくれる。ソメイヨシノの出現以前に、ソメイヨシノが実現したような桜の景色を何人もが詠っていたのだ。この桜が現実にした光景は、想像の上ではすでに存在していた。桜の美しさの理想としいて、もともと存在していたのである。(ry)この桜は桜の美しさの理想の一つを実現したものでもある。Ⅱ章でくわしくみていくように、ソメイヨシノが普及した要因はいくつもあるが、その一つとして、この『一面の花色』という理想があげられる。先ほど想像が現実をなぞるとのべたが、もう半面では現実が想像をなぞってもいるのである。」p48