銀の滴(しずく)降る降るまわりに(知里幸恵)

梟の神の自ら歌った謡
「銀の滴(しずく)降る降るまわりに」


「銀の滴(しずく)降る降るまわりに、金の滴降る降るまわりに。」という歌を私は歌いながら


流に沿って下り、人間の村の上を通りながら下を眺めると


昔の貧乏人が今お金持になっていて、昔のお金持が今の貧乏人になっている様です。


          『アイヌ神謡集』(知里幸恵、一九二三)


 上は、「梟の神の自ら歌った謡「銀の滴(しずく)降る降るまわりに」」という神謡の冒頭部分。『アイヌ神謡集』は、アイヌの神話のいくつかを、知里幸恵というアイヌ人が日本語訳したもので、一九二三年に出版されている。未曾有の危機から、富国強兵に邁進していた中で、アイヌ語と日本語が併記された神話集が出版されたということは、「ヤマト」が「アイヌ」を統合していった歴史を考える上できわめて興味深い資料であり事象である。著作権が切れているため、『アイヌ神謡集』は「青空文庫」というウェブサイトで公開されている。ぜひ、「序」だけでも読んでほしい。
http://www.aozora.gr.jp/cards/001529/files/44909_29558.html


 川に沿うように点在する人間の集落。それを眼下に、ゆうゆうと風をとらえながら、フクロウの神は「銀の滴(しずく)降る降るまわりに、金の滴降る降るまわりに。」とうたう。アイヌの、美しく優雅な「世界」認識は、私たちの「世界」認識にまで豊かな広がりをもたらしてくれる。