文学

殺人の狂気に、二郎はおどる

武田泰淳の短編小説、「審判」の一部分を紹介する。主要登場人物「二郎」は、日中戦争時に兵士として中国に従軍した。その際、とある農村で老夫婦がうずくまっているのを見つける。二郎は、非戦闘員の彼らに銃口を向ける。「もとの私でなくなってみること、…

幽州台に登る歌(陳子昂)

幽州台に登る歌 陳子昂 前に古人を見ず 後ろに来者を見ず 天地の悠悠たるを念い 独り愴然として涕下る これは孤独をうたった詩だ。 人が人として生きる上で対面せざるを得ない絶対的な孤独と、その悲しみをうたった詩だ。 この詩のすばらしい点は、空間的な…

一つのメルヘン(中原中也)

一つのメルヘン 中原中也 秋の夜は、はるかの彼方(かなた)に、 小石ばかりの、河原があつて、 それに陽は、さらさらと さらさらと射してゐるのでありました。 陽といつても、まるで硅石(けいせき)か何かのやうで、 非常な個体の粉末のやうで、 さればこ…

黒い風琴(萩原朔太郎)

黒い風琴 萩原朔太郎 おるがんをお弾きなさい 女のひとよ あなたは黒い着物をきて おるがんの前に坐りなさい あなたの指はおるがんを這ふのです かるく やさしく しめやかに 雪のふつてゐる音のやうに おるがんをお弾きなさい 女のひとよ。 だれがそこで唱つ…

文学作品には、その作品をつき動かす力がある。

文学作品には、その作品をつき動かす力がある。その作品の登場人物たちを行動させ、また自然現象を生じさせ、そして、偶然や出会いを導く力がある。 その力が働くから、文学作品は喜劇となり、あるいは悲劇となり、私たち読者の心をうつのだ。 自分が今読ん…