社会的ジレンマ  「環境破壊」から「いじめ」まで

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社会的ジレンマ  「環境破壊」から「いじめ」まで
山岸 俊男 2000 PHP

内容、カヴァー折口より

違法駐車、いじめ、環境破壊等々、「自分一人ぐらいは」という心理が集団全体にとっての不利益を引き起こす社会的ジレンマ問題。数々の実験から、人間は常に「利己的」で「かしこい」行動をとるわけではなく、多くの場合、「みんながするなら」という原理で動くことが分かってきた。この「みんなが」原理こそ、人間が社会環境に適応するために進化させた「本当のかしこさ」ではないかと著者は考える。これからの社会や教育を考える上で重要なヒントを与えてくれるユニークな論考。

感想

社会問題の多くが、社会的ジレンマ――個人の利益を追求すると社会の利益を害してしまい、逆の面からみると社会の利益を追求すると個人の利益を損ねてしまうという葛藤――にあると喝破している。

この社会的ジレンマを解決するにはどうすればよいのか? どんな制度設計が必要なのか?
多くの研究成果や付随する問題を取り上げ、説得力のある議論を展開している。

結論はやや常識じみているというか、私たちの直感的思考に従うものであるが、まあ、社会学の結論にはそういうのも多い。

とかく、今後の社会のあり方、制度設計、そして人間性そのものの理解を深める上でも、非常に重要な議論であると感じた。

メモ

社会的ジレンマというのは、人々が自分の利益や都合だけを考えて行動すると、社会的に望ましくない状態が生まれてしまうというジレンマです」p11
「現代の社会問題と言われているものはほとんどが、何らかのかたちで「公共財問題」ないし「社会的ジレンマ問題」の側面を含んでいる、と言っても言い過ぎではないでしょう」
社会的ジレンマの問題は結局個人の利益と全体の利益との葛藤・調和の問題であり、人間社会にとって根本的な問題」p25
社会的ジレンマというのは、一人一人の個人が、全体の利益――そして自分たち自身の長期的な利益――に反する行動を生み出すインセンティブに直面している状態」p224
例:環境破壊など

(社会的ジレンマ問題は古くからあったが、近代でより重要化。
理由①:社会の流動化、帰属集団の増加・多様化。
    これにより掟や評判などによる個人の拘束が困難に。
理由②:人口や生産力の向上。
    迷惑をかけあう能力が増大した。)p37

「社会的平和の必要性を理解しながらも他人を信用できないため、自発的な協力により「万人の万人に対する戦争状態」を解決できないでいる人々は、自分たちの独立と自由を少なくとも部分的に放棄し、それを公権力に委ねることにより安心の保証をえようとする、というのが、ホッブスが提唱した社会契約論の骨子」p91
ホッブスの議論にとって肝心な点は、公権力の目的が人々を強制的に協力させることにあるのではなく、自発的に協力したいと思っている人々の不安を取り去ることにより、そういった人々が自ら望んでいる協力行動をとることができる環境を用意すること」p92

(協力的な行動をとる人々に報酬を与え、非協力的な行動をとる人に罰を与えると、人々は協力的な行動をとりやすくなる。
しかし問題もある。
問題①:監視するのにコストがかかる。
問題②:自発的に協力しようとする意識(内発的動機付け)が薄れてしまう。
    また時間が経つにつれ、自発的に協力しようとする意識が薄れていくと、報酬と罰をより大きくしないと効果がなくなってしまう。「アメとムチの中毒」)p95

(進化心理学者のコスミデスは、物理的な環境への適応より、大多数の集団の中で駆け引きをしながら生き抜いていかなければならないという社会的な環境への適応が、知能の進化に大きな影響を与えた、と指摘。「裏切り者を見つける能力」や「相手が協力してくれるなら協力する、協力しないなら自分も協力しないといったよくみられる考え方」は、社会的なジレンマを解決するために進化したのではないか)p128

(協力的な人には協力的な対応をし非協力的な人には非協力的な対応をする人間が多数を占める社会では、利己的な行動をする人間よりも、協力的な人には協力的な対応をし非協力的な人には非協力的な対応をする人間の方が大きな利益を得る)第五章

(いくら教育しても利己的な人間というのは発生してしまう。利己的な人が一方的に利益を得、のさぼることがないように、協力的な人には協力的な対応をし非協力的な人には非協力的な対応をする人間を増やしていくべき)

(「限界質量」という概念がある。多くの人間は「みんなが協力しているのなら自分も協力しよう」というスタンスなので、一定の数の人間を協力行動させれば、集団内の多くの人間が協力行動をする。この数が限界質量。逆にこの限界質量を下回っていれば、多くの人間は協力行動をとらない、ということになる。イジメ問題など有用なアイデア。)p192