エコロジストのための経済学

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エコロジストのための経済学
小島寛之 2006 東洋経済新報社

内容、アマゾンより

「環境破壊=悪、環境保護=善」という二元論では、何も解決しない。経済学の理論を用いて、環境問題の「むずかしさ」を、経済学初心者にもわかるように、平易に解説。

メモ

「 環境問題の解決が一筋縄でいかないのは、そこに経済問題の要素が大きく影を落としているからだといって良い。経済というのは、市民の暮らしの大きな部分を支配するものである。多くの人は、経済的な利益とかかわらない限りにおいて、倫理的で節度ある行動ができるものだ。しかし、いったん雇用や所得に影響があるとなれば、なかなか寛大ではいられない。これは人間の性向として自然なことであり、(ry)環境問題を解決するなら、経済問題を解決しなくてはならないし、そのためにはまず、「環境問題は経済問題である」ということの意味を正確に理解することが欠かせないステップである。」p鄽


「 環境問題は、確かに「現象」としては自然科学の問題であるが、その「原因」までを考察するなら、ほかならぬ「経済システム」の問題だからである」p5

雑感

 本書で何度も強調されるのは、[環境問題は経済問題であり、環境問題を解決するには経済的仕組みを利用しなければならない]ということである。
 環境問題は難しい。口で唱えるだけでは解決しないのはもちろん、心の底から環境保全を願っても難しい。
 なぜなら、どのような仕組みで環境問題が起こるのか(それがどのような経済理論で整理されているのか)、を理解した上で、それに基づいて解決策を考えないといけないからだ。
「環境問題をなかなか解決できないのは、人間が愚かだからではなく、まったく逆で、賢く合理的に経済行動をする生き物だから、ということだ」p鄽
という著者の指摘にはなるほどと思った。
つまり、経済的に合理的に行動するから環境問題は起こるのである。ならば、環境問題を引き起こすような行動は、経済的に不合理になるようなルール(システム)を作らなければならないとういのが、筆者の主張。


 本書の特徴は、現実に存在している環境問題と、その環境問題と関連のある経済理論を紹介している点だ。「共有地の理論」や「ゲーム理論(ナッシュ均衡)」、「ケインズ理論」、「コースの定理」などが登場する。
 環境問題を、数字の優劣を基準におき、システマティックに理解するのはおもしろい。
 著者の慎重な態度・姿勢にも大変好感が持てる。


 環境問題が、経済の問題である以上、経済学の知見を使って解決を図ろうというのは当然だろう。昨今話題の、排出権取引や炭素税などがそれに該当する。環境を悪化させることで得をする(利益を得る)人と損をするを、経済的に結びつける方法だからだ。


 ただ、[環境問題を解決するには、経済問題としてとらえ、対処しなければならない]というのを前提としておきつつも、やはり社会的に、【地球環境というものは保全されるべきものであり、そうすることが人類にとって望ましい】という道徳心をより教化していくことも必要だと思う。