前方後円墳の世界

前方後円墳の世界
広瀬 和雄 2010 岩波

内容、カバー折口より

見る者を圧倒する巨大な墓、前方後円墳。造られた当初は、全体が石で覆われ、時に埴輪をめぐらすなど、さらなる威容を誇っていた。三世紀半ばから約三五〇年間、この巨大古墳が列島各地に造られたのはなぜなのか。共通する墳形にはどんな意味があるのか。史跡として復元・整備された古墳を歩きつつ、その世界観や地域相互の関係に迫る。

メモ

(前期古墳の副葬品は、鏡や武器だけでなく、鉄鎌・鉄鍬といった生産財も。「首長が統治していた共同体をいつまでも繁栄させるための道具類が中心」「そこからは、威信財・権力財・生産財を駆使して、〈死した首長にもうひと働きしてもらおうという共同の願望〉が読み取れます」)p38
→おもしろい発想だと思った。でも僕は反対かな。確かに副葬品には共同体を繁栄させる道具といえるものもあるが、〈死した首長にもうひと働きしてもらおうという共同の願望〉を読むよりも、それらを独占できる自分の権威を示したもの、と考える方が自然ではないだろうか。鏡や勾玉など、死者を悪霊から守護する呪術的遺物が埋葬されている点からも、基本的に副葬品は死者のためのものと考える。

(日本の古墳の副葬品の特徴(朝鮮半島と比べて)。
1、食器といった生活財がない
2、中国鏡がごく普通に埋葬されている。)p38
朝鮮半島で中国鏡が埋葬されていないのは、直接陸続きで接しているため、中国と対立関係にあったためではないか。

前方後円墳は地域差というよりも、個体差をもちながらも、墳形、埋葬施設、副葬品の組合せなどに、それらを貫く共通性を保持しています。」p124

「変化しながらも伝統的な墳墓様式をひきついだ巨大前方後円墳は、〈継承されたつながり〉を内外に見せつづけます。畿内五大古墳群をはじめ、各地の首長墓が往々にして古墳群を形成するのは、こうした系譜的つながりを内外の人びとに見せるのが第一義であったのです。」p139

感想

○考古学資料に基づいて論を展開しているのだが、思い込みによる解釈が多い。
でもこれはしかたないかなあ。考古学の本はこういうのが多いんだよね。
文字史料の残っていない昔の人々の精神世界を考古学資料から読み説こうとすると、どうしても根拠薄弱ないいかげんな主張になりがち。

○本書には、朝鮮半島前方後円墳に対して言及がない。
なんで?
前方後円墳」をタイトルに銘うつのならば、朝鮮半島にある前方後円墳について言及すべきだろう。
長期間、別の文化文明に属する土地に、ヤマト王権の象徴ともいえる特異な形式の墳墓が存在するのである。
前方後円墳について論ずるのなら避けては通れない議題だ。