採用基準 地頭より論理的思考力より大切なもの

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採用基準 地頭より論理的思考力より大切なもの
伊賀 泰代 2012 ダイヤモンド社

内容、出版者ウェブサイトより

就職超難関企業と言われるマッキンゼーは、地頭のよさや論理的思考力が問われると思われがちだ。しかし元採用マネジャーの著者は、このような定説をきっぱりと否定する。マッキンゼーでは世界で通用する人材を求めており、頭のよさだけではない。それは現在の日本が必要としている人材像と同じと言える。

メモ

○これからのグローバルビジネスの前線ではリーダーシップのある人材が求められている。

○リーダーがなすべき四つのこと
・組織のメンバーを奮い立たせる目標を掲げること
・先頭を走る。新しいアイデアに真っ先にチャレンジし、方向性を決める。
・情報も時間も不十分ななかで決断していく。その責任をひきうける。
・仕事の内容や意図を組織のメンバーにしっかり伝える。

アメリカ人の学生も、最初はグローバルで活躍できる人材なわけではない。アメリカのビジネススクールに集まってくる世界各国の優秀な留学生と交流することにより、多様な価値観を知り、世界に目が向き、グローバルビジネスパーソンとして成長している。アメリカのビジネススクールはグローバルビジネスパーソンを育てるための教育機関として機能している。

○面接で見極めているのは、考えることが好きでこれまでよく考えてきており、そして考える身体的精神的体力がある人物かどうか、ということ。(よりよく考えるためのフレームワークはあとからでも学べる)

○パフォーマンスの高いチームづくりには、最終的なリーダー職は一人だとしても、構成員全員にリーダーシップが必要。自分がリーダーだったらどうするか、という視点でみなが仕事に臨む。

○社会人として最初に訓練を受ける場所の影響は絶大。あとから矯正することは簡単ではない。(保守的な組織に染まっていないか)

○明確な目標があり、その達成難易度が高ければ高いほど、強いリーダーシップが必要。

○日本企業の管理職の職務は、法令遵守や部下の管理に重きがおかれ、リーダーシップの重要性に対する意識が乏しい。

○各種利害を調整することは、リーダーシップを発揮することではない。

○変化に対応できる人ではなく、社会や組織を自ら変えることのできる人材が求められている。

○個々の仕事の「バリュー」を意識することが大切。ごく短い時間単位で「どんなバリューを出したのか?」問うことが重要。高いバリューを出す仕事を選択する。

○結論を出すことにフォーカス(注力)することが大切。そのことによって検討の時間は短くなり、また問題点も浮かび上がり改善・修正も素早く行えるようになる。
準備が完璧になるまで決めないという意志決定方式は、準備を完璧に行うことが可能だと思っている点で傲慢、非現実的。

○日本は傑出したリーダーが少数現れてはいる。しかし、リーダーシップを発揮できる人数の総数は少ない。日本の問題点はここで、リーダーシップの総量を高めていく必要がある。

○問題の大小にかかわらず、リーダーシップを発揮する機会は日常的にある(会合で出され残ったお菓子をどう処理するかなど)。日常の場から解決に向けて案を提案していくなどリーダーシップを発揮し、伸ばしていくことが必要。日常の場でリーダーシップを発揮できない人に、大きなプロジェクトでのリーダーシップなど望みえない。

○日本は豊かになり、それにともなって人々のニーズは多様化している。そのような社会で多様化したニーズに対応するためには、中央集権的な意志決定システムではなく分散型の意志決定システムが不可欠となっている。そういう社会には多くのリーダーが必要。

○リーダーシップを発揮して問題を解決していくことは楽しいこと。そうした経験を積み重ね、自分にできる範囲が大きくなっていくと成長も実感できる。

感想

○著者の前職であるマッキンゼーの「採用基準」というよりは、より高い目標を達成するために必要不可欠なリーダーシップについて述べている本。
勉強になる本だし、著者のようにレベルの高い仕事をしている人の話を聞くと、自分も少しでもかくありたい、少しでも成長したい、少しでもいい仕事をしたい、と思わされる。それだけでも、僕みたいな怠惰怠惰怠惰な人間には役立つ本だった。

○著者はリーダーシップの重要性、そして本当のリーダーシップのあり方について説いている。著者の述べているリーダーシップ。その一つのポイントは「当事者意識」ではないか、と感じた。
仕事にしろなんにしろ、自分の周りにある大小様々な問題。それらに対してどう考えるか。自分にはあまり関係ないどうでもいいやと考えるのか、誰かがやってくれるからほっとこうと考えるのか。それとも自分のこととして解決しようと考えるのか、そしてそのためのアイデアを周囲の人々に提案し、解決のための一歩を踏み出そうとするのか。
そういう普段からの姿勢について、後者をリーダーシップがあると定義している。まさにこれは「当事者意識」だろう。そしてそれはそのまま、自分やその人生、また他者や社会に対するスタンスそのものだろう。
リーダーシップについて述べている本書は、仕事だけでなく広義の意味で生き方を問うものになっている。あなたはどう生きるの? どう人生に、社会にコミットするの?、と。

○本書の述べているリーダーシップは非常に厳しいものに思えた。本書はリーダーに必要なこととして以下を述べる。
・組織のメンバーを奮い立たせる目標を掲げること。
・先頭を走る。新しいアイデアに真っ先にチャレンジし、方向性を決める。
・情報も時間も不十分ななかで決断していく。その責任をひきうける。
・仕事の内容や意図を組織のメンバーにしっかり伝える。

このようなリーダーを社会全体のなかに増やしていくためにはリーダーに対する意識改革だけではなく、その他メンバーの意識改革も必要だろう。
日本社会は、重たい責任を引き受けるリーダーを尊重する人が少ないように感じる。もちろん健全な批判は必要だ。しかしリーダーを尊重する姿勢がなければ、結論にフォーカスした批判はできまい。問題解決にむけて一丸となって行動できまい。自分だったらどうするのか? 限られた情報のなかメリットデメリット天秤にかけてどう決断するか? 著者が述べているように自分がリーダーだったらどうするか、という視点で組織全員が議論し行動することが大切だ。そしてそによってリーダーの限界や苦しみ、考えを理解でき、リーダーを尊重する姿勢につながるのだと思う。

○著者の指摘するリーダーシップの必要性は理解できる。どのような人でも人生を日々豊かにしていくために必要だろう。
ただこれを本書の元々の意図である仕事についてみると、全ての仕事で高いリーダーシップが求められているわけではない。行政はすぐに制度や仕組み変えてはまずかろう。慎重に行動しなければ多くの混乱を招く。また教育のように結果が出るまで非常に時間がかかったり、成果のみえにくい仕事もある。
著者の指摘するリーダーシップの必要性はその通りだと思う。しかし、当然ながら全ての仕事、すべての立場に一律に強力なリーダーシップが求められているわけではない。