軍需物資から見た戦国合戦

軍需物資から見た戦国合戦
盛本 昌広 2008 洋泉社

内容(カバー折口より)

戦国時代、大名たちが苦心したのは有事の際の軍需物資の確保だった。なかでも木材、竹は重要で、築城はもとより、武器、武具、柵、旗指物、篝火、戦場での炊事用の薪といったように、戦略・戦術上必要不可欠なものだった。戦国大名は、領国内の木材を確保してはじめて合戦が可能となった。しかし、無制限に伐採をおこなうと森林資源は枯渇してしまうため、領国内の森林の管理は、戦国大名にとっては極めて重要だった。武器、武具や築城などに必要な森林資源を戦国大名たちがどのようにして確保、管理したのか?いままでにないまったく新しい側面から戦国合戦像を明らかにする。

感想

戦国時代、多数の武将たちが覇を競って合戦を行った。戦争である。戦国時代の戦争には、どのような資材が必要で、それをどのように調達・管理してきたのか、その一端を明らかにする本。
本書によると、合戦を行ううえで膨大な量の資材が必要らしい。兵糧はもちろん、柵や矢倉のために大量の木材、旗指物に使う多数の竹が必要だ。兵士や物資を移動させる船もいるし、野戦を警戒するために絶えず明かりが必要で、そのための炭や松も大量に消費する。敵方の堀を埋めるために周囲の草を刈り取って使うこともあったらしい。

これら資材を手に入れるためには一定の技術者を保持しておく必要がある。また森林資源の伐採を制限、管理するのみならず、苗木の育成や植林をてがけた大名もいたそうだ。

これら軍需物資の重要性を鑑み、ある章のタイトルで「合戦の勝敗は軍需物資の確保にあり!」と看破するあたりはすがすがしい。

もっとも、兵站(ロジスティクス)を考えるのは、近代戦争においては当然のことである。先の大戦で旧日本軍が敗北していった要因としても、この兵站の維持ができなかった、というのはよく指摘されることだ。
要は近代戦争も戦国時代の戦争も、兵站が最需要事項の一つという点で一緒、ということ。
しかし、このように戦争において兵站は最重要事項の一つにも関わらず、これまでの中世の歴史研究において兵站は軽視されてきたのではないか? 本書のような問題意識をもった本は存外少ないように思う。
合戦当日における指揮官の戦術的采配や攻城戦の妙にばかり着目されてきたと思うが、今後はよりよりこの、兵站(そして兵站に対する将軍たちの考え方)に着目して、歴史の穴を埋めていく必要があると考える。それによって、より戦国時代のありようが正確に浮かび上がってくるのではないだろうか。

○本書は、戦国大名の北条氏が、徴発や購入によって物資を確保している例を中心に紹介している。
さすがに、他国の例が少なく、地域的な偏りが大きいなあ。

本書が論じているのは、まあ、はっきりいって常識的なことだ。合戦に大量の資材が必要なんて、一瞬指摘すれば、もうそれは当然のことで、いちいちその具体例を並べる必要は少ないのかもしれない。

しかし、それはそれで物足りない。中身がない。

例え常識的な結論になろうとも、もっともっと証拠を、幅広い地域の具体例を提示し、丁寧に慎重に網羅的に論を展開しようという姿勢が必要だったと思う。

それこそが研究者の取り組む、「研究」に必要なものだ。具体例の量や地域的なバランスが主張に揺るぎない説得力をもたらし、あるいは意外な事実を浮かび上がらせるのである。それが欠けている以上、研究者の書く文としては、研究途上過ぎると言わざるを得ない。

もし他の戦国大名に史料が残っていないならそれはそれで、一言指摘して欲しいな。

○ネット上で感想を拾っていると、タイトルには「軍需物資」と銘打っているにも関わらず、ほとんど森林資源にしか焦点を当てていないという指摘があった。全くその通りだと思う。まあ、木材と竹材、そしてその管理に焦点を当てるのは全然いいと思うんだけれど、タイトルは誠実でありたいよね。

○本書を読んでいくと、合戦を優位に運ぼうとする戦国大名たちが木材や石材といた資源を必至で求めて、日本の国土が席巻されていく様子がイメージされる。そう、台風のようにね。ぶわんぶわんと。
そうしてかつての日本は森林資源の収奪が進み、保護の手はうたれども、いたるところはげ山だった、と指摘していた本を思い出した。
「森林飽和 国土の変貌を考える」
http://d.hatena.ne.jp/skycommu/20130805/1375694390

メモ

○(戦国時代は日本の歴史のなかで最も戦争状態が継続した時代。中世から戦国時代にかけて山林の伐採が拡大し、そのやせた土地に松が増えていった。)p20