世界を動かす石油戦略

世界を動かす石油戦略
石井彰, 藤和彦 2003 筑摩書房

内容、カバー折口より

石油は、世界全体のエネルギー消費の四割をまかなっている。この石油をめぐって、米国と中東産油国、ロシア、中国が二〇世紀とはまったく異なる「国際政治ゲーム」を繰り広げようとしている気配が濃厚である。石油をめぐって国際情勢が大きく動かされる時代、あるいは石油が国際政治によって大きく動かされる時代を再び迎え、日本はどのように対応すべきなのか。

感想

開戦の動機も戦争の趨勢も、石油という資源に縛られて、しかも敗北してしまったかつての日本。そこに生まれ生きる私としては、意外な事実が論じられていた。

著者曰く、
石油は流通性の高い商品であり国際市場が整備されているため、そこから柔軟に調達することができる。このことを無視し経済性を度外視した石油の囲い込みを行うと悪循環を引き起こしてしまい結果、各国間の緊張を招いたり石油市場が機能しなくなる可能性があり有害だ。現在形成されている石油市場を安定化させることがなにより大切である、と。


素人である私には本書の妥当性など評価できないが、ネット上をチェックしても特に大きな反論もなく、おそらく本書のいうとおりなのだろう。


本書の示す視点から世界を見ると、これまでと全く違う世界が見える。
勉強になる本だ。しかし、あまりに大きな話のくせに、身近な話でもあり、自分のこれまでの知識の中でどう整理をつけていいのか、ちょっと迷ってしまう。

メモ

○1980年代後半以降、「国際石油市場」が急速に発達したため、場所を問わず、石油を調達することができるようになった。
北海や中南米など、中東以外の産油国の躍進。超大型タンカーの一般化による輸送コストの低下。石油はいまや非常に流通性・流動性の高い商品になった。

石油問題の専門家にとってこれらは常識だが、それ以外の知識人はよくわかっていない人が多く、的はずれな議論が横行。

○非専門家による的はずれな議論が、非専門家が政策を決めることによって現実化することも。

○石油価格を決めるのは市場。
90年代半ばから、投機的な動きによって石油価格が乱高下するようになり、これの安定化が中心的な関心に。

○石油は、
「戦略物資(経済合理性より政治や軍事の論理で動く重要基礎物資)」
        ↓
「市況商品(市場メカニズムだけによって価格・需給がめまぐるしく動く流動性・流通性の高い商品)」へ

理由:各国における石油備蓄制度の充実、経済活動全体における石油の重要性の低下、推定埋蔵量の増大

○石油市場は世界単一であるため、例えば中東で政治的な混乱があり、中東の原油価格が急騰すると、他の地域の原油価格も急騰する。これが米国が中東に政治的・軍事的にコミットしてきた理由。
米国の目標は「国際石油市場」の中長期的な安定の維持。

○石油は枯渇性の化石燃料なため、生産量を維持、あるいは増産するためには、次々と新しい油田を発見し開発したり、現在の油田設備の手当をしなければならない。自転車操業的性格をもっている。

○油田には莫大な金が必要。油田というハイリターンを得る前に、巨額の資金を投入して掘っても油が出ないというハイリスクに金銭的に耐える必要がある。高度な技術も必要。
ゆえに北米以外は巨大な石油会社しか事業をできない。

ユダヤ系米国人団体のアメリカへの影響力は大きい。
アメリカの世界石油戦略を見る場合には、イスラエルの利益との関連がどうなっているのかも考えてみる必要がある。

○大きなシェアを誇っている北海の産油量が減少している。
このままでは中東のシェアが上がり、中東の政情に国際石油市場が大きく左右されてしまう。それを防ぐため、北海に変わる政治的に安定した産油地域として、ロシアが有望。
以上から、アメリカの政策はカスピ海沿岸やロシアの原油生産を後押ししている。

○中国は急増する石油需要に対し、産油国との特別な同盟的関係や市場を無視した(=赤字になる)強引な資源囲い込み、同じく市場を無視した国内開発を志向している。
→石油の再配分機能が働かないなど、国際石油市場の安定性を損ないかねず、国際石油市場から石油を調達しているアメリカや日本といった石油消費国と対立することになる、

○今後、石油の生産が伸びそうな地域は政治的安定性の低い地域ばかり。
カスピ海沿岸、ロシア、西アフリカ沖合、ブラジル沖合

○資源の囲い込みなど経済の論理を無視した形での政策は、相手にも同じような反応を呼び起こす可能性が高く、悪循環に陥ってしまう。
流通性が高い商品なので経済原理に則って対応するのが基本。
関係国同士がwin-win戦略にならねばならない。

○日本のやるべきこと。
①石油供給源の多様化
 →中東に依存しすぎはまずい。
②調達手段の多様化
 →詳しい言及はない。天然ガス輸入用のパイプラインの設置が触れられていたからこのことかな。
③そしてエネルギー源自体の多様化。
化石燃料における石油のウェイトを下げるべき。例えば天然ガスのさらなる活用が有効性が高い。
(日本は天然ガスの利用に遅れている)
(大都市間をつなぐ天然ガス用のパイプラインと、安価な輸送コストで国内に輸入するための幹線パイプラインが必要)
(日本に輸入するための天然ガスや石油の産出地として、サハリンや東シベリアが有望)