謎とき日本合戦史 日本人はどう戦ってきたか

謎とき日本合戦史 日本人はどう戦ってきたか
鈴木 眞哉 2001 講談社

内容(表紙より)

華やかな騎馬武者による源平の一騎打ち、川中島の決戦、信長鉄砲隊の三段撃ち…、日本史を彩る数々の合戦はどのように戦われたのか?我々に語り継がれた「歴史常識」を問い直し、日本人の戦い方を明快推理する。

感想

○学術的に非常に隙の多い、甘い、雑な本だと思った。

○本書は、軍記物は誇張が多い信憑性がうすい、よって太平記をはじめとした軍記物の白兵戦の描写はうさんくさくて信じられない、と主張。一般人が楽しむものという軍記物の特徴から誇張が多いのは事実としても、そこからすなわち戦闘描写はうそっぱちだ、というのは論理の飛躍では? 信憑性を増すために事実に基づいた描写をするとは考えられないか? 軍記物の戦闘描写は信じられないという主張には賛成する部分もあるのだが、もうちょっとしっかりした根拠を示してほしかった。主張は単なる推論に過ぎず、しかも雑な推論なのである。

○自説にそわないことの書かれている史料を、(信用できない)といって一刀両断する。それはそれでいいんだけど、〈信用できる〉、〈信用できない〉の規準が示されていない。

史料を多数引用しても、自説に沿ったことの書かれた史料ならばそのまま採用し、自説に沿わないことの書かれた史料ならば(信用できない)といって自説に沿っていないことを理由に切り捨てる。
これではとても学問的な本とはいえまい。

○文字で書かれた史料だけでなく、発掘史料や絵画史料に目を向けてみてはどうか、と思った。本書は視野が狭い。

○本書ははっきりいって、日本のこれまでの戦争は槍や刀を使った白兵戦ではなく、弓を使った遠戦が中心だったと述べている。
本書の主要な主張はそれだけ。白兵戦に重点を置く世間の空気を批判的に昇華するという点ではテーマ設定自体は悪くないと思う。しかし「謎とき日本合戦史 日本人はどう戦ってきたか」というタイトルをみるならば、その内容が薄いと言わざるを得ない。本書は戦争のわずかな一面を切り取っているだけで、とても「合戦史」というタイトルはつけられまい。よくあるタイトル詐欺の本。

メモ

○(平安・鎌倉時代の戦争の主体は騎馬兵の弓矢によるもの。)p43

○(南北朝時代以降、徒歩の兵士が主体になっていく。なお、主要な武器はやはり飛び道具。飛び道具による負傷者が圧倒的に多い。軍忠状という報告書を調べると、負傷の7〜9割は飛び道具によるもの。)p84

○(幕末期、外国との紛争に敗北した諸藩は、火力を用いようが白兵を用いようが、強力な火力の前には太刀打ちできないと気づき、軍事技術の導入が進んだ。)p188

○(日露戦争で多大な消耗にもかかわらず白兵戦が行われたのは、国家が兵士を次々と補填しうる仕組みの近代国家という形態のおかげでもある)p223

○(日露戦争で白兵戦が効果をあげたと分析され、それをふまえて大日本帝国陸軍の根本思想となった。勝利の確認手段にすぎなかった白兵突撃が攻撃精神の結晶であるとされ、決勝の基礎とみなされるようになった。なお、その白兵戦を評価した陸軍の分析は疑わしいものだった。)p224

○(資金や弾薬不足に悩まされた大日本帝国軍がなんとか活路を見いだそうとしたのが、それらのあまり必要のない白兵戦、という面もある。)p229

○(欧米も白兵主義を採っていた。しかし、第一次世界大戦のヨーロッパ戦線の惨状を経験した西欧諸国は白兵信仰を放棄。)p235