江戸時代

おすすめ!
江戸時代
大石 慎三郎 1977 中央公論新社

内容、出版者ウェブサイトより

小説・映画・演劇が作りあげた江戸時代のイメージは、歴史学の研究成果と合致しないものが少なくない。また膨大な史料や事実の中で、全体像を見失った歴史書もある。あるいは、近代社会が前の近世社会をことさら古く見せようとした傾向もなくはない。本書は、二五〇年あまり内外ともに戦争のなかった時代、しかも今日の一般庶民大衆の歴史が直接始まった時代の全体的特徴を、捉え直す。江戸時代イメージを一新する通史である。

感想

○大変勉強にある本だった。学んだことがたくさんあった。やっぱり中公新書はいい!特に本書においては江戸時代の日本社会を構成するうえでの、その背景にある基礎的な事項が多々学べたと思う。江戸時代に為政者がどんな政治判断をしたのか?どんな事件が起きたのか?といったような個別的な出来事の集積としての江戸時代を学んだのではなく、その背景にある人々の価値観、生活、社会を安定させながらくるくるまわす統治・社会システム、そして各方面にわたる社会変化を学びうると思うのである。
このような基礎的な事項、江戸時代のもろもろを考えていく上で土台となるようなことを、知っていることももちろんあったが、知らないことも多々あった。

○例えば、現在では主要な平野部として開発が進み人口が密集している大規模河川の下流域が、江戸時代以前では河川の氾濫のためほとんど開発されていなかった、という指摘には驚かされた。確かに自分の経験上、古い集落というのは山間にあるような気がする。
町の見方を一変させる指摘であった。もっと学ぼう!

○なお本書は「江戸時代」という仰々しいタイトルであるが、その江戸時代を特段、網羅的に扱っているわけではないので、本書を読んでだいたい分かった気にならないように注意が必要である。

メモ

(歴史学者の仕事は、客観的事実をただ並べることではなく、実態の残骸にすぎない客観的事実を考証検討しその失われた部分も含めて実体を復元すること。)p鄱

(一般庶民が自信の祖先をさかのぼりうるのはせいぜい江戸時代初期まで。それまで在地小領主のもとで半ば奴隷的な状態で支配されていた庶民大衆の祖先のことなど分かろうはずがない。江戸時代は庶民の歴史がはじまった時代といえる。)p鄴

(大河川下流沖積層平野は江戸時代まで洪水の氾濫原だったため人々は利用できず放置されていた。人々は水田を「谷戸」と呼ばれる大河川支流のまたその枝川が小さな谷間を流れているといった狭小な地域につくるか、小平地の一隅につくったため池を灌漑水源として水田をつくるほかなかった。
そんななか強大な領主権力と高度な用水土木技術によって戦国時代から江戸初期に大規模河川に対する巨大土木工事が集中して行われ、ほとんど未開だった沖積層平野は広大・肥沃な農耕地につくりかえられていった。耕地総面積は江戸時代中期には、室町中期の約3倍にも増加)第Ⅱ章

(田んぼを掘り起こした者ではなく、その田んぼに水を引くための用水路を整備した者が開発者として子孫まで村内の尊敬と権力を集めた)p43

(物資輸送は水上輸送が原則。そのため城郭都市は河川や海、人工運河に接するようにしてつくられている。)p81

(江戸時代の賄賂は一度にどかっとおくるのではなく、平素から幅広く顔をつないでおくことが有効でありそれ目的として継続的に贈っていた。)p212

(将軍の権力が絶対であったゆえ、身分の低い者も能力の高さから信任を得られれば大きな権力をもって政治運営をすることができた。ただしそれは時々の話であり、上級武家の巻き返しがあった。)p214

(江戸時代末期になるとほとんどの藩の財政は破綻状態であり、諸藩はそのやりくりに苦慮した。そんななか、藩財政を立て直すものの一つが専売制。ただしある生産物を専売できるには広大なまとまった土地が必要。しかし多くの藩は小さく、専売制をできるような条件をみたすものはわずか。
薩摩は藩をはじめ、専売をうまく行いその利益で軍備を強化できた藩が雄藩となり明治維新を成している。)p235

(幕末期はほとんどの藩の財政が破綻状態であったわけだが、なかには借金をしていた商人や支配する村々に! 藩の財政再建をまかせる例もあった。支配されているはずの村がその代わりに厳しい節約条件を殿様に突きつけることもあった。)p237