文明としての江戸システム

文明としての江戸システム
鬼頭 宏 2002 講談社

内容、背表紙より

豊かな自然に依存した徳川文明は、国際的には“近代世界システム”と“冊封体制”に対抗して“日本型華夷秩序”を形成し、国内では幕藩体制のもと、各領国が拡大する市場経済により統合されていた。発達した貨幣制度、独自の“物産複合”、プロト工業化による地方の発展、人口抑制―環境調和的な近世日本のあり方に、成熟した脱近代社会へのヒントを探る。

感想

○本書は江戸時代を、江戸幕府による幕藩体制のもとで長期間安定し、閉鎖的な施策のなかで西欧社会の世界システムとは異なって独自に発展した文明として捉えている。その視点をもとに、人々の生活や都市、自然環境、産業発展、経済システムと、それらの変化を論じている。

○本書を読んでいるとなんだか、透視感があり、、、、、、そうだ、本書に書いてあることのほとんどは、高校の日本史の教科書に記されていることなのだ。
都市の開発・勃興、産業・家庭内手工業の発展、農地の拡大、各種文化の爛熟、経済システムの高度化、流通システムの発展、江戸幕府による様々な経済改革、などなど。どれも日本史の教科書に書かれていたことだった。

本書はそれらを、「成熟した脱近代社会」の一要素として捉えている。本書は大変読みやすいし分かりやすいし、印象に残った。もしかしたら過去に学んだ「日本史」も、江戸時代をそういう風に捉えていたかもしれない。しかし、本書のようにイイタイコトを強く打ち出し、そしてそれに常に焦点化させながら論じることで、ぐっと理解は進むんだと思う。
もちろんそういう風に焦点化することによって落ちてしまう要素もあるだろう。ただ初学者が勉強するうえでは、本書のように全体を統括する主張をぐっとうちだす。主題を絞って焦点化しながら論を展開する。その方が、印象に残り、勉強のはじめにはいいんじゃないかな、と思った次第。

メモ

南北朝時代から市場経済が発展し、江戸時代には各層の日常に市場経済が浸透。それにより「販売」という要素が生じたことで、土地の効率的な利用が指向され家族労働中心の小農経営が促進された。

○江戸時代の幕藩体制は、各大名の領国統治の上に成り立っていたが、その内実は全国的な市場経済のネットワークを前提にしていた。主な年貢であった米の全国的な市場と、全国的な枠組みのなか整備された貨幣制度のもとで、貨幣を軸に物資とサービスがやりとりされていたのである。

○近世以前の農業 → 隷属農民をもちいた粗放的な大規模経営と、家族単位の小規模経営が混在。
近世以後の農業 → 市場経済の拡大により、家族労働力を中心とする労働集約的な農業経営が成立。以前だったら隷属農民になっていた者やオジ・オバといった傍系親族が世帯をもつことになり人口も増加(特に江戸時代前期)。

○江戸時代後期には社会が豊かになったこともあり晩婚化と出生抑制がすすみ、少子化の様相をみせた。

○江戸時代を通じて裏作の普及や生産性の向上によって食用作物の生産高が向上。また、生糸、綿、菜種、藍、紅花、タバコといった商品作物の生産も成長した。

○江戸時代には、過剰伐採による土砂の流入や鉱山資源の採掘による水質汚染が起きており、環境汚染や環境破壊が既に問題となっていた。

○江戸時代は、人口成長の意図的な抑制、資源の再利用・再生・節約によって成立し得た循環型社会と評価できる。寿命や余暇、教育といった生活の質の面を見るならば前工業化期の西ヨーロッパ諸国と同等、もしくはそれ以上の水準に達していた。