小説の読み方 論文の書き方

小説の読み方 論文の書き方
野間 正二 2011 昭和堂

内容(出版社ウェブサイトより)

小説を読み解くスリルと、読書の興奮をまとめあげるスキルをあなたに。この一冊で、多面的な読み解き方と、論文・レポート執筆のイロハが自然と身につく。文学研究の入門者や小説好きに最適。

感想

タイトル通り、文学論文の書き方、というかテーマ設定のヒントが書かれている。もっと正確にいうと、
(先行研究が小説を読んでだいたい思いつくようなことを研究・論述している中で、先行研究がおさえていることが少なく研究のテーマにしやすいことはどんなことか?)、だ。

筆者は四つの読みの視点を提示している。
「語り手から読む」、「歴史から読む」、「少数派の視点から読む」、「謎を手がかりに読む」である。

文学研究を一通り経験したことのある人だったら特段目新しくはない。どれもとっかかりやすいテーマであると同時に、先行研究が手を付けていない可能性の高いテーマでもある(最近はそうでもないけれど)。
また純粋に、以上のような観点に着目して小説を読んでいくと、意外なことに気づいたりして、「読み」を多様なものにし、小説世界を深めていく上でも便利だ。
多様な「読み」を受け入れられ、また相矛盾した要素を受け止められることが、よい小説の一つの基準になると僕は考えている。

本書はこの四つの視点を整理・紹介するとともに、『グレート・ギャッツビー』という一つの英文小説を、四つの視点から分析してみせる。この構成は分かりやすく、実践的でいいなあ、と思った。

こういうハウツーものは応用例がついてなきゃ、自分の血肉にならない。

強引な分析が散見され辟易することも多かったが、この構成は高く評価したい。

メモ

「語り手が、どのような特徴をもった語り手であるかを解明しなければならない。そして、その語り手によって語られることで、その小説にどのような効果が生まれているのかを考えなければならない。最後に、その語り手が語りえたことと、語ることができなかったことを弁別したうえで、語られた小説世界が意味していることをもう一度考える必要がある。」p55