それでも、日本人は「戦争」を選んだ

おすすめ!
それでも、日本人は「戦争」を選んだ
加藤 陽子 2009 朝日出版社

内容、出版社ウェブサイトより

かつて、普通のよき日本人が「もう戦争しかない」と思った。世界最高の頭脳たちが「やむなし」と決断した。
世界を絶望の淵に追いやりながら、戦争は
きまじめともいうべき相貌をたたえて起こり続けた。
その論理を直視できなければ、かたちを変えて戦争は起こり続ける。
だからいま、高校生と考える戦争史講座。
日清戦争から太平洋戦争まで。講義のなかで、戦争を生きる。
世界を絶望の淵に追いやりながら、戦争は
きまじめともいうべき相貌をたたえて起こり続けた。
その論理を直視できなければ、かたちを変えて戦争は起こり続ける。
だからいま、高校生と考える戦争史講座。
日清戦争から太平洋戦争まで。講義のなかで、戦争を生きる。
       *
生徒さんには、自分が作戦計画の立案者であったなら、
自分が満州移民として送り出される立場であったなら
などと授業のなかで考えてもらいました。
講義の間だけ戦争を生きてもらいました。
そうするためには、時々の戦争の根源的な特徴、
時々の戦争が地域秩序や国家や社会に与えた影響や変化を
簡潔に明解にまとめる必要が生じます。その成果がこの本です。

メモ

(戦争とは相手国の社会の基本秩序をかきかえるもの、とルソーは主張)p42

(日本は、ロシアが朝鮮に不凍港をつくることを恐れた)p105

(ロシアの影響力拡大を中国は恐れたため、日露戦争では中国側からひそかな協力あり。)p178

(国民に大きな犠牲が出たにもかかわらず三国干渉に譲歩した政府に対する不満が、普通選挙につながる)p184

「国土が広大で人的物的資源が豊かなソ連アメリカ、中国、そして七つの海に植民地帝国を築いていたイギリス。これ以外の国は、総力戦となったときに、おそらく持久戦はできない」p377

(大日本帝国軍は、まともなロジスティクスをつくらず、多くの兵を飢え死にさせた。国民の食料も軽視した。自国兵士の悲惨な記憶、国民自身の劣悪な生活の記憶のため、中国人や朝鮮人の犠牲者が顧みられない傾向がある。)p398

感想

○おもしろくて、一気に読んだ。

「時々の戦争は、国際関係、地域秩序、当該国家や社会に対していかなる影響を及ぼしたのか、また時々の戦争の前と後でいかなる変化が起きたのか」p8というのをテーマに、日清戦争から日露戦争第一次世界大戦満州事変に日中戦争、そして太平洋戦争を分析。権力者が発する外国向けの言葉、国内向けの言葉、建前、そして本音を、史料の基づきながら紹介している。
なぜ権力者たちは、史実のような選択をとったのか。どういう論理の道筋で、それが最適だと思ったのか。
この問いに答えるには、当時の日本の状況や外国の状況、地政学的視点、日本と諸外国との関係、その後の影響などを知らなければならない。本書はこの問いに答えようというものだ。

ネット上の感想に、「切り離して取り上げられることが多いこれらの戦争の全体を見通す構成は、歴史が連続したプロセスであることをふまえたものだ」(http://www.h-yamaguchi.net/2011/01/post-4b66.html)という指摘があった。まさにその通りで、帝国主義とその終焉が見えかけていた時代、軍事的防衛と権益拡張を目指し、戦争ざんまいだった20世紀前半の一連の流れが理解できておもしろかった。

侵略戦争であった一面を肯定するとともに、「中国の側からも、東アジアにおける日中関係のリーダーシップを握ろうとする試みがあったことを自覚的に見なければならない……日本が中国を侵略する、中国が日本に侵略されるという物語ではなく、日本と中国が競いあう物語として過去を見る」p84という視点に本書は基づいている。こういう視点もバランスをとる上で大事だろう。


○「問い」をたてることの重要性を述べる。「歴史的なものの見方というのは、……悩める人間が苦しんで発する「問い」の切実さによって導かれてくるもの」p47
例えば、E・H・カーは、国際連盟による平和はなぜ二十年しか続かなかったのか、という問いをたてた。


○「政治的に重要な判断をしなければならないとき、人は過去の出来事について、誤った評価や教訓を導きだすことがいかに多いか」p68
例、スターリンが指導者に選ばれたり、対ベトナム戦でアメリカが深入りしたり


○ページの下の方にポップな書体で、本書の要点や学者の名言、重要人物の名言が載せられており、これがすごくいい。本書の内容がわかりやすくなるとともに、歴史やその次代を生きた人物たちに親しみがもてた。


○一次資料を、出典をきちんと明示しながら多数引用しており、高校生相手にも手を抜いていないな、と感じさせられた。