「太平洋戦争」は無謀な戦争だったのか

「太平洋戦争」は無謀な戦争だったのか
ジェームズ B ウッド著 茂木弘道訳 2009 ワック

内容、出版者ウェブサイトより

大東亜戦争に対する日本の基本戦略は、東南アジアの資源地帯から米英蘭勢力を駆逐した後は、対米、すなわち太平洋は防御、攻勢の主方向は、インド洋と中国だった。この基本戦略通りに戦ったならば、日本が負けることにはなり得なかった──
米国人歴史学者が検証した“太平洋戦争の真実”には、日本人が大東亜戦争を見直す際の教訓に溢れている。

感想

○著者はタイトル通り、『「太平洋戦争」は無謀な戦争だったのか』?をリサーチクエスチョンとし、議論を進めている。
その内容は、次のようなものになっている。すなわち、大日本帝国軍の能力や用兵を評価しつつ(特に開戦初期)、その失策を指摘し、失策が回避され有効な戦略が展開されていれば、戦争は長引き、アメリカに対して有利な「終戦」にもっていけたのではないか、ということだ。

○もちろん、戦略的に失敗したから戦争に負けてしまったわけで、戦略的にうまくいっていたら、当然氏の指摘するような「終戦」を想定することはできよう。
本書の主張への疑問点というか、反論できる点は素人の僕でもいくつもある。

一つはアメリカが軍国体制になっていた、ということだ。戦闘機や軍艦の圧倒的な製造数をみるにつけ、アメリカも戦争するための国家体制になっていた。この巨大な歯車を、相手を打ちのめすことなく途中で止められるのか?

また太平洋戦争は、日本によるハワイへの奇襲作戦によってはじまった。「卑怯な日本人」というプロパガンダが広く喧伝され、戦意高揚に使われた。このラベルを乗り越えて手打ちができるだろうか?
アメリカに対し手打ちを引き出すといえば、朝鮮戦争ベトナム戦争を思い出されるが、それらはあくまで、米国が介入したという体である。領土を直接攻撃され直に参戦した太平洋戦争とは条件が異なるだろう。

ただそれでも本書が指摘するように、日本が途中で戦略を防衛に転じれば、戦争が想像以上に長期化し、別な「終戦」の形はあり得たと思う。あの時代の技術水準を考えればアメリカとはいえ、核兵器のことを考えても、長大な補給線を維持し、広大な戦域を保持するのは多くの犠牲が伴う。(本書の指摘によると、アメリカは太平洋における長大な補給線を維持するのに苦労していたそうだ。) 日本とは違いアメリカからすれば、地理的にも歴史的にも文化的にも《海の向こうの向こうの話》なのである。

ヨーロッパとは違い歴史的に縁の薄いアジアのために莫大な死者をアメリカ世論は許容し得たか、というのは一考に値する議論だろう。

(本書は、日本の抵抗が長引けば、アジアの共産化への危惧や連合国内の不和により、日本にとって有利な「終戦」を迎えられた可能性を指摘している。当時のここらへんの感覚はよくわからないが、著者の指摘するとおりなのだろうか。)

○本書を読んでいて思ったのが、今まで僕は疑問に持つことを放棄していたな、ということだ。太平洋戦争後期の圧倒的物量の差や空爆されまくった本土の惨状を考えれば、ついなんて「無謀」な戦争を・・・・・・と考えてしまいがちだ。

しかしよく考えれば、他国を複数取り込み、ある種の国際化を果たしつつあった日本の最高指導者たちがいろいろ考えて、それでも「勝てる」見込みがある、と考えたわけだ。
実際に、日本は初戦で圧勝しているし、油田の確保や欧米勢力の西太平洋中部地域からの駆逐という初期の目的をすみやかに達成している。

当時の日本の指導者たちがどのような葛藤を経て、海鮮という決断をしたのか、というのはもっと検証すべきだし、「勝てる」という見込みも間違っていると簡単に断じるのは、結果を知っている現代人たる私たちの知的怠慢ではないか。

「無謀」だった、と一刀両断にするのはある意味思考停止と同じだ。そうではなく、地理的状況、日本とアメリカとの大きな国力差のなか、どのようにして日本は糸を通そうとしたのか、そしてそれはどこでうまくいかなくなったのか、考えるべきだと思ったのだ。

メモ

○台湾、フィリピン、マリアナ諸島から日本本土への空爆が可能。日本にとっては絶対防衛ライン。

大日本帝国軍は、太平洋戦争開戦初期に連合国に対する勝利が続いた。そのため、当初の計画を変更し、当初の目標よりもさらに外部へ侵攻していく戦略に変更した。
 →この戦略の変更、拡大路線が急激な敗北の原因に。数々の失策、消耗戦が行われたのが、外部の敵重要拠点への攻勢攻撃。

○「強力で堅固な国防圏を構築するという本来の構想を熱意を持って忠実に実行し、軍事資源をより有効に調整しながら活用し、消耗戦を避け、さらにこれ以外の同様に明白な諸策、措置を講じていたならば、日本の立場は改善していたはず」p52

○日本が取るべきだった戦略、戦術
 ・当初の予定を越えた拡大路線を取らず(消耗戦の回避)、初期の優勢を利用し、効果的な防衛体制、国防圏を構築すること。
 ・進出した島嶼部に強力な防御陣地の構築、兵力配備、浮沈空母たる堅固な飛行場の建設に取り組む。
 ・護送船団方式による商船の護衛に、初期の段階から取り組む。
 ・潜水艦による敵補給線の攻撃に、初期の段階から取り組む。