新世界より

新世界より
貴志 祐介 2008 講談社

内容(「BOOK」データベースより)

子供たちは、大人になるために「呪力」を手に入れなければならない。一見のどかに見える学校で、子供たちは徹底的に管理されていた。いつわりの共同体が隠しているものとは―。何も知らず育った子供たちに、悪夢が襲いかかる。

感想

SF冒険小説。念じることで、世界に力を及ぼすことができる人間たちの世界を描く。
前半は、SF世界の紹介といった場面で退屈だったが、主人公たちが冒険し困難に直面し、管理されていた世界の化けの皮をはがし、世界の負の面が少しづつ明らかになってくると俄然おもしろくなってきた。
バケネズミという高度な知性をもった群生物が出てくる。バケネズミとバケネズミの戦争、そしてバケネズミと人間の戦争は、主人公の体験を通して緊張感をもって語られる。読者はそれを追体験することで、本書の世界の確かさとスケールの大きさが描かれている。
主人公たちはバケネズミと人間の間を走りまわり、何度も絶望的な状況に追い込まれる。主人公は少女であるが、知恵を振り絞って何とか危機から脱出していく。冒険譚としてよくできている。

人間の残酷さがこの小説のテーマ。個々の人間をみていくとつまりミクロにみていくと、もちろん悪いやつがそうそういるわけではない。それぞれの人間は(慈しみ)と(残虐性)の間に葛藤しながら、ただただ必死に生きようとする。
しかしその個々の在り様を俯瞰的にみたとき、つまりマクロにみたとき、そこにあるのは救いのない人間の残酷さである。それは最後まで徹底していて、安易な救いを拒否する姿勢に好感をもった。

本書は、主人公であり語り手でもある渡辺早季が、少女から青年のころにかけて経験したことの、後世に残した手記という形をとっている。しかしこの形式が成功しているとは思えない。こんな長くて、しかもミステリー仕立ての手記を誰が読むというのか。

本書はこんな一文で終わる。
「想像力こそが、すべてを変える。」
本小説は、憎み合い、殺し合いをやめることができない人間の残酷さを暴き立てる。ではどうすればいいのか? その解は示されることはない。その先は、主人公たちや読者に投げられた。
そうしたなかでのこのラストの一文は、胸にすとんとおちる。