メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学

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メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学
松永和紀 2007 光文社

内容、折口より

世界に氾濫するトンデモ科学報道。納豆ダイエット捏造騒動を機に健康情報番組の問題点は知られるようになってきたが、テレビを批判する新聞や週刊誌にも、あやしい健康情報が山ほどある。そこには、センセーショナルな話題に引っ張られるメディアの構造、記者・取材者の不勉強や勘違い、思い込み、そして、それを利用する企業や市民団体など、さまざまな要素が絡んでいる。本書では、さまざまな具体例をもとにメディア・バイアスの構造を解き明かし、科学情報の真贋の見極め方、リスク評価の視点を解説する。

感想

○マスメディアの、食品や化学物質に関するいい加減な報道や番組をとりあげ、そのような報道がなされる構図を暴く。

まあ、色々なところで言われてきたことでもあるけれど、もうこれはシステムの問題で、マスメディアはそういうシステムの上で動いているから変わらないよね。
罰を与えて動機付けを与えたら多少は変わるかな。
健全なマスメディアと市民社会の発展のためにも、ますます市民側の批判能力が必要になるだろう。それとそれを育成する教育も。

大変勉強になった本だった。ぜひ多くの人に読んで欲しい。

食品添加物には大変厳しい基準が採用されている、という。動物実験の結果、人間に影響が出ないと考えられる量にさらに100分の1をかけて、一日の摂取許容量を決めているとのこと。きちんと運用すれば(これが問題だけど)、かなり安心できるのではないだろうか。

○物事を判断するのって難しいよなあ。知れば知るほど、そう思う。

メモ

(いい加減な報道や番組が共通しているのは、
分かりやすい話であること、
良いか悪いかの一刀両断・白か黒かの二分法。
科学はそれほど単純ではない。条件や量の大小で良くも悪くもなる。グレーが大部分)p5

(いい加減な報道や番組は、最初に結論ありき。
視聴率の稼げるテーマを掲げ、都合のいい学説や論文をつなぎ合わせて単純なストーリーを創作し、都合のいいコメントをしてくれる研究者に登場願う。)p27

(化学物質を使う際は、利益と損失を総合的に考えること)p54
→もっとも、化学物質を組み合わさると想定外の影響が出ることもあるという非常に慎重な視点も欲しいが、、、

「悪い部分をわざわざ抜き出し、センセーショナルに伝えるマスメディアの傾向が、社会に悪影響を及ぼしてしまうこともある。」p78

(科学的根拠のある「危なくない」記事よりも、世間を驚かす「危ない」記事を書いた方が、社内評価が高い。そして楽)p91

「私の見る限り、多くの企業は必要最小限度の食品添加物を科学的、合理的に使い、きちんと表示して消費者の理解を得ようとしています。そうした企業が批判され、(摂取した人が)「キレる」などという扇情的な言葉で(添加物を使っていませんと)宣伝する企業が得をする。そんな社会を今、メディアとその情報に振り回される消費者が作りだそうとしています。」p129

(化学物質の善悪を考える上で、合成品か天然物であるかは関係ない)p132
→でも僕は、天然物の方が安全である可能性が高いと思う。なぜなら、人間や自然がその物質に長い間接し対応してきた可能性が高いと思うからだ。
あくまで可能性の話だが。

(研究者はニセ科学を批判をしても自分の評価に結びつかないばかりか、面倒ごとに巻き込まれかねないため、公で声を上げようとしない。)(「科学でないものに取り合っても仕方がない」と多くの科学者は言う)p216
→ダメだろこんな姿勢。多くの研究者は国から直接金をもらっているし、大学にしろ「科学」の名のもとに高額な授業料を徴収できている。社会が「科学的」をもとに健全な幸福を追求できるよう声を上げるべきだ。

(科学といえども政治や経済に翻弄される。バイオ燃料トランス脂肪酸の問題など。一見科学的な論争に見えて、実は国同士の政治的経済的駆け引きであるケースは数多い。情報の受け手は建前の議論と報道の陰にある科学的な本質を見なければならない。)第10章

「報道が依然として問題を抱える一方で、マスメディアの外側では変化の兆しが見えだしています。行政や科学者らが「もうメディアには頼れない、信用できない」と自ら動き出し、情報をメディア抜きで伝えはじめています。」p241

「情報とは報道とは、「絶対に正しいもの」ではなく、取材者、制作者の思い込みを反映した不十分なもの」

「氾濫する科学情報を識別するための十ヶ条
1、懐疑主義を貫き、多様な情報を収集して自分自身で判断する
2、「○○を食べれば……」というような単純な情報は排除する
3、「危険」「効くなど極端な情報は、まず警戒する
4、その情報がだれを利するか、考える
5、体験談、感情的な訴えには冷静に対処する
6、発表された「場」に注目する。学術論文ならば、信頼性は比較的高い
7、問題にされている「量」に注目する
8、問題にされている事象が発生する条件、とくに人に当てはまるかを考える
9、他のものと比較する目を持つ
10、新しい情報に応じて柔軟に考えを変えてゆく」p255

「情報とは、報道とは、人が扱う以上はバイアスを持って当たり前。」p258