官報複合体 権力と一体化する新聞の大罪

官報複合体 権力と一体化する新聞の大罪
牧野 洋 2012 講談社

内容、出版社ウェブサイトより

「今すぐ新聞をやめなければあなたの財産と家族が危ない!」
政・官・業そして「報道」で形成する裏支配者たちの全貌!!

消費税増税原発事故拡大も新聞が作った!?
長らくガラパゴス化の道をたどり、権力と一体化して既得権益を享受してきた日本のマスコミ。大震災後には財務省増税路線を援護射撃しながら、福島第一原発事故については「プレ
スリリース原稿」を乱発してきたのではないか

感想

上杉隆氏の著書、「ジャーナリズム崩壊」と内容の重なる部分が多いな、と感じた。
アメリカの報道と日本の報道を比較していること。そして日本の報道がただ単に政府や大企業の発表の垂れ流しするばかりで、自分たちの足で情報の収集し現状を鋭く分析することがで
きていない点を指摘したり、権力側のリーク情報に依存しているため、権力を批判できず、権力を監視し得ていないと指摘するなど、骨子は同じである。
本書には著者が経験したり考察した細かな具体例が載っており、骨子に厚みをもたらしている。

筆者の意見にはかねてから大賛成で、勉強になる本だった。

アメリカの、権力をチェックする機関としてのジャーナリズムに、熱意と人生をかけて行動している人々が印象的だった。

アメリカのマスメディアは、市民に取材し市民目線で記事を書いているという。その理念もよく分かるが、注意しないとデータによらないで一部の行動の派手な人間にばかり取材した
り、センセーショナルな意見だけを拾ったりしそう。また、視線が市民に向いているのはよいが、全体を見渡していない低い視野になりそう。

○筆者があげる例は警察や検察関係が多い。『官報複合体 権力と一体化する新聞の大罪』というタイトルなので、その題名に注力しているといえるが、マスメディアの報道対象は、企
業や市民運動、社会の変化、学術の結果など、様々である。本書は、報道の一面を切りとり、整理し、深めている、と理解したい。

メモ

○権力側が情報を隠そうとするのは当然。情報の独占が権力の源泉だからだ。ゆえに報道機関が徹底的に調べるべき。

○日本の報道はリークに頼りすぎている。
 ・リークを提供してくれる組織を批判しにくい。
 ・官の意図にそった報道

○日本は匿名報道・偽名報道が多い。
→取材する側も取材される側も後に検証されないため、放言が飛びだすなど、いい加減な取材になる危険性がある。お互いに責任もない。
命に関わったり罪に咎められない限り、本名で報道すべき。
→情報の出所をほとんど明かさず後に検証されることもない日本の新聞に正確性はあるのか?

○日本の特ダネ・評価される記事は、発表報道を権力に取り入ることでその発表前にすっぱ抜いた「発表先取り型」。しかし「国民にとって重要であるにもかかわらず放っておけば埋もれ
てしまいかねない事実を掘り起こし、社会的弱者を守るニュース」こそが、本当に価値のあるニュース。それは「調査報道」を地道に行うことでつかんでいく他ない。

○週刊誌の方が新聞よりも権力を監視する役割を果たしている

○日本の新聞社は内部告発者を守ることができていない。活用もできていない。視点も権力者側の視点になりがち。

○日本は捜査する側・裁く側(権力者)は匿名、捜査される側・裁かれる側(弱者)は実名。

○日本は裁判官や捜査官の実名はもちろん、人間性やその問題点を報じない。

○報道される側の反論もなし。

○日本の報道機関は、裁判所という司法権力に対する批判がほとんどない。

記者クラブ制は、一部の報道機関が情報を独占し、プレスリリースを読みやすく書き直して垂れ流すだけの日本の報道姿勢につながっている。

○日本では「権力に食い込むことこそ記者の王道」とされてきた。市民(弱者)に対する取材は少ない。一方アメリカでは、「政府ではなく納税者、大企業ではなく消費者、経営者ではな
く労働者、政治家ではなく有権者」の目線で取材するよう教え込まれた。

○権威筋に食い込んで書いた原稿は「信頼できる原稿」。しかし、実態は「権力よいしょ記事」と紙一重であると同時に、電話一本で書ける「お手軽原稿」でもある。

アメリカの報道機関は、「調査報道」に人的・金銭的資源を集中させている。

アメリカにおいて「調査報道」はNPOとして活動する例が増えつつある。調査報道には大いなる公共性があるが、多額の資金が必要であり富める者や市民の寄付が役立つからだ。

○日本において、権力者が報復される恐れもないのにオフレコを求めるのは、マスコミを自己に有利な方向へ誘導するためではないか。

○日本の報道では、情報の出所を明示しないことが多い。情報の信頼性やどの視点からの情報か判断しづらい。アメリカではこのようなことはまかり通らない。

○日本の新聞は、通信社から配信記事を受け取ればいいようなストレートニュースを確保するために人員を派遣している。金の無駄。

○日本の報道は内部告発を有効にいかせていない。内部告発に対しては、情報を集め検証すべきである。

ピューリツァーの理念(「国民にとって重要であるにもかかわらず放っておけば埋もれてしまいかねない事実を掘り起こし、社会的弱者を守るニュース」を!)をアメリカ新聞界へ広く
広めるうえで、ジャーナリズムスクール(ジャーナリズム養成をはかる、厳しい授業内容の大学院)とピューリツァー賞が車の両輪として機能している。