おおかみこどもの雨と雪
おおかみこどもの雨と雪
細田 守 2012 角川
内容(「BOOK」データベースより)
大学生の花は、人間の姿で暮らす“おおかみおとこ”に恋をした。ふたりは愛しあい、新しい命を授かる。“雪”と“雨”と名付けられた姉弟にはある秘密があった。人間とおおかみの
両方の顔を持つ“おおかみこども”として生を受けたのだ。都会の片隅でひっそりと暮らす4人だが、突然“おおかみおとこ”が死んでしまう。残された花は姉弟を連れて田舎町に移り住
むことを決意する―。映画原作にして細田守監督初の小説登場。
感想
○本小説のアニメ版が、だいぶ前にネットでさかんに論評されていたので小説版を読んでみた。
結論からいうとあまりおもしろくなかった。
主人公の「花」は、ときにオオカミに変身してしまう双子を生む。その孤高の子育て苦労話、といったところか。
そしてその双子は、「人間として生きる道」と「オオカミとして生きる道」という、それぞれ象徴的な生き方を選択する。
さきほど、「孤高の」と書いたけれど、僕にはむしろ「孤独で周りに救いをもとめない、もとめられない母親」に見えた。
比較的理解のありそうな人々に恵まれるのだけれど、ついに「花」は苦悩を周りにうちあけることはない。
もちろん、子供がときどきオオカミに変身してしまうという異常なことをうち明けると、周囲から異端視され排除されてしまう、といえるかもしれない。
しかし、その危険性が真に迫るように伏線が張っていたわけではない。むしろ周囲の人々は理解のありそうに描かれていた。
ゆえに「花」の「孤独」が際立つのだ。
○本書を読んでいて一番違和感を感じたのが、自然に対する理想を投影しているという点である。そしてその投影された理想がなんというか不自然で、人間にないと著者が感じているだ
ろうことの裏返しなのだ。そこには人間に対する皮肉はあるが、その皮肉はなんとも一面的で表層的だし、もちろん自然と向き合おうとする姿勢も思想もない。
たとえば、人間である「花」が育てる子供たちは、オオカミの特性を引き継ぎ、ときにオオカミに変身できる能力をもった。その子供がオオカミに変身して猿やカモシカを追い回すのに
対し、「動物たちの前で偉そうにしない」P82などと注意する。
ここでみてとれるのは、他の種に対する理解ではなく、非現実的な理想の投影だ。他の部分でも「狩猟本能」を「紋切り型な暴力衝動」と位置づけているなど、自然の残酷さから目を背
けているようにしかみえない。こういう自然や動物不在の自然観、動物観がかいまみえ、思想のレベルは非常に低い、と感じた。
○そもそも、主人公らが生活する田舎=里山は、純粋な自然などではとうていなく、人間が大きく大きく進出し、自然界と人間界とが混ざり合った環境である。せっかくこのような舞台
を準備したのだから、そして「自然」に関心があるのだから、人間界と自然界(オオカミ)について、もうちょっと葛藤の含んだ豊かな物語が生まれそうに思う。
○田舎の狭量な人間関係がもたらす残酷さもなし。一面的だなあ。
○主人公「花」をはじめ、本書に登場する多くの人物は、ただただコミュ力のない人物が多かった。