経済は感情で動く はじめての行動経済学

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経済は感情で動く はじめての行動経済学
マッテオ・モッテルリーニ 泉典子訳 2006(原著) 紀伊國屋書店

内容、カヴァー折口より

経済学って、こんなに人間的で、面白い学問だったのか。最新の行動経済学は、経済の主体であるところの人間の行動、その判断と選択に心理学の視点から光を当てる。そこに見えてきたのは、合理性とは似つかない「人間的で、あまりに人間的な」一面。クイズ形式で楽しく読み進むうちに、「目からうろこ」、ビジネスでのヒントに溢れ、お金をめぐるあなたの常識を覆す。

感想

 大学の講義で心理学の先生が、〈人は理性ではなく感情で動く〉、とおっしゃっていた。そのとき、まさにそうだなあ、と合点いった。人間の認知と行動には様々なバイアスがかかり、論理的で最も効率が良いように考えたり行動することはほとんど無い。
 本書は、人間は合理的に行動するのではなく、そのときどきの感情や間違った認知によって、非合理的な経済行動をすると指摘する。そして、人間はどのように認知したり行動したりする傾向があるのか(バイアスという)明らかにし、それを理解することでより良く思考しよう、とまとめている。
 例が豊富で分かりやすい。また、各章に「教訓」という名称でまとめが置かれているので、復習するのに便利。
 表現が皮肉っぽくておもしろい。訳も自然で読みやすい。
 一方、各バイアスを説明する例で、あり得ないようなものや抽象的なものがいくつかあった。『もし、A3万円もらえるのと、B25%で15万・75%で0円、どちらがいいですか?』みたいなやつ。こういうのは、頭にいまいちピンとこないので、よりありそうで具体的なものの方が例としては好ましいと思った。

メモ

「数字は冷たい客観的なものではなくて、感情によって色づけされるから、そこからは、驚くほど非合理な結果が飛び出してしまう。」p15


(価格と価値に差がある三つの選択肢があるものでは、真ん中が最も多く選択される。)p39


(「自分のもの」には高い価値を与え、手放したくなくなる)p53


(マスメディアで大々的に報道されたリスクは、異常に高いリスク評価をしてしまう)p79


「私たちは、秩序のないところに秩序を見つけるという、特殊な能力を持ちあわせているようだ。たんなる偶然の出来事に過ぎないものに、ありもしない意味を付与してしまう。」p80


(人は、事前には予想すらできなかった事象が、事後には必然であったかのように思ってしまう。)p83
「私たちには、過去の出来事に意味を与え、それ以前の状況から避けようもなく生まれた結果なのだと考えるという、特殊な能力がある。」p187


(選択肢が得する方だと確実な方を選ぶ。一方、選択肢が損する方だと、確実な損失より、過大な損失かゼロかの確率に賭け冒険にでる)p101


「経済的取引における正義や公平の捉え方は、客観的数値によるだけでなく、比較、正当化、動機づけ、提示方法など、さまざまな条件によって左右される」p126


「人間の感覚器官は、絶対的な数値を測るというより、むしろ変化や差異を捉えるようにできている」p128


(リスクの被害を実際の数字で表すと、そのリスクを大きく感じ、不安がかきたてられてしまう。たとえその確率が非常に小さくても。)p148


「新聞やテレビの報道をみるとき、各種の統計数字については、母体数がどれだけかを確認し、%表示であれば実数に、実数表示であれば%に置き換える頭をもとう。そうすれば、最初に受けた印象と異なり、騒ぐようなことではない、とわかるかもしれない。」p165


「成功すると自分のため、失敗すると他人のせい」p174


(ある決定が正しいかどうかを知るには、その決定にともなう結果を考えるのではなく冷静にプロセスを考えるべき。結果も大事だが、結果は運に左右される。偶然成功した決定を参考にすると、次に合理的な判断ができなくなる。)p191


(ピーク・エンドの法則:経験の快苦の記憶は、ほぼ完全にピーク時と終了時の快苦の記憶で決まる。時間の長さはあまり関係ない。)p213