悪の教典

悪の教典
貴志 祐介 2010 文藝春秋

内容(「BOOK」データベースより)

学校という閉鎖空間に放たれた殺人鬼は高いIQと好青年の貌を持っていた。ピカレスクロマンの輝きを秘めた戦慄のサイコホラー。

感想

○エンターテイメント小説としては一級のおもしろさ。仕事の合間合間に一気に読まされた。

○主人公の蓮実聖司は高校の英語教師。恵まれた容貌と優れた頭脳、並外れた行動力を持ち、次々と問題を解決し周りから好かれ、評価される。

しかしその実彼は、仕事上の問題だけではなく、「自分の欲望を満たす上での問題」も、人の死すら厭うことなく「解決」していくとんでもない異常者だった。

そんな主人公が、学校でひっそりと、暴れまくるストーリー。

蓮実聖司は、自分は感情がないと繰り返し言うが、そんなことはないだろう。むしろあらゆる欲望に正直だ。ないとするならば、他人の痛みに共感する感情か。
そしてこれまたどっかで本人が言っていたように、蓮実聖司は「問題」を解決する上での選択肢が人よりはるか幅広い。だってそれには人の死すら取り得るのだから。
蓮実聖司が、普通の人なら思いもつかないような非倫理的な方法で問題を解決していく様は爽快だ。強力無慈悲なブルドーザーを思わせるのである。

○また本小説は、ライバルらしき人があっさりと死ぬのも特徴。おお、強力な障害が立ち上がってきたぞ、蓮実聖司はどう対処するのかな、と思ってたら、あっさり殺される。さすがにこんなに殺しまくれば警察に疑われそうだけどなあ。

○あと、アクセントとして二羽のカラスが出てくる。上巻の表紙にもなっているし、そのうち一羽は蓮実聖司に殺されるが、そのシーンは、蓮実聖司の異常性を最初にあらわにする印象的な場面だ。
とまあ、重要なアクセントなのだが、その扱いがいまいち。途中で半分忘れられているし、芸術性もない。もったいない。

○蓮見は最後に計画を失敗させてしまうが、無事に将来につなぐ。余韻よし。