眼中の人

超おすすめ!!
眼中の人
小島政二郎 1995(初版1942) 岩波


【あらすじ、表紙より】
年少より鴎外・荷風に傾倒していた著者(一八九四〜一九九四)が,芥川竜之介菊池寛の知遇を得て文学に開眼してゆく経緯を描いた自伝的長編小説.文学修業の途上で自分を啓発してくれた人々をつねに眼中にあって忘れられない人として語る大正文壇史でもある.鈴木三重吉や『赤い鳥』にまつわるエピソードも興味深い.


【雑感】
http://ansokuwww.blog50.fc2.com/blog-entry-227.html
↑これスレの元ネタだということで読んでみた。
上記のスレもとてもおもしろいが、本書もそれに負けず劣らずおもしろかった。


私小説。語り手のかけがえのない友人である菊池や芥川との交流が描かれる。尊厳ある個人と個人の交流。真の友情。わたしの友情もかくありたいと思った。お互いを尊重し、そして高め合うような。


この小説には、語り手の文学観の変遷も描かれている。語り手は当初、文章の美しさを重視し、できるだけ説明を省き描写で成り立つ小説を是としていた。しかし、菊池の勢いのある小説に感銘を受け、人生の真実に迫り、読者の胸を激しくうつ小説を目指すようになる。
小説という芸術に対する価値観の変化が鮮やかに力強く語られる。小説(芸術)を追い求め苦悩する態度に、わたしは強く引きつけられたのだ。


「小説とは、文章とは、筆を持って机に向う以前の――その瞬間までの、作者の全生活の堆積だ。机に向う刹那までの作者の全人格の活動だ。含蓄の発露――それ以外の何者でもない。」p207


なんだろう。芥川竜之介菊池寛鈴木三重吉ら、登場人物がとても身近に感じる。主人公と彼らが、お互いを尊重し合い、助け合い、また冗談を言い合える関係にあるからだろうか。
強烈な個性。強い自我。そして天性の才能をあわせもった人々が息づく世界。それでも人間くさい天才たち。それがこの作品の魅力だと思う。