ガリア戦記

超おすすめ!!
ガリア戦記
ユリウス・カエサル著 中倉玄喜翻訳・解説 2008 PHP研究所

内容、出版社ウェブサイトより

希代の英雄ユリウス・カエサルジュリアス・シーザー)が自らの手で綴り、2000年前のローマ市民はもちろん、今日まで多くの読者を魅了してきた世界史上最も有名な古典、それが『ガリア戦記』である。
 カエサルといえば、ローマ帝国拡大の立役者。とりわけ、その軍事的天才と悲劇的な最期によって今日でも人気が高い。さらにこの戦記で発揮された文学的才能は、キケロモンテーニュ、日本では小林秀雄が絶賛するほどのものであった。
 本書は、その最大の特徴である「簡潔にして格調高い文体」を再現することに成功している。カエサルが戦闘においていかなる知略を発揮したか、また、いかに言葉の扱いに巧みであったかを、読者はつぶさに体験することになろう。『ガリア戦記』が一大古典となった秘密がここにある。
 本書は、当時の政治、民族、軍隊等についても詳細な解説を付し、さらに適宜地図を挿入することによって、読者の理解を助けている。

感想

 すばらしい!すばらしい!すばらしい!
 おもしろい!おもしろい!おもしろい!


 昔の人の生活や、ものの考え方に興味がある。だから、比較的古典をよく読んできたが、それは、「古典」だから読んできたのである。例えば、古事記老子の場合主として、それが「古典」であり、昔の人の考え方や歴史に直接触れることができるから、読んできたのである。もちろん今まで読んできた古典がつまんないとはいわないし、むしろ興味を惹かれるところはたくさんあったが、それでもやはり、第一義的には、昔に書かれたから読んできたのである。


 しかし、この「ガリア戦記」という古典は違う。おもしろい。めっちゃおもしろい。著者であるカエサルは、ローマの大軍を率い、ガリア(今のフランスやベルギーあたり)やブリタニア(今のイギリス)に侵攻する。当時ガリアは、いくつもの部族が入り乱れ、またドイツ方面からゲルマン人の圧力を受けていた。カエサルガリアの地理がはっきりしないなか、敵対するガリー人やゲルマニー人をばっさばっさなぎ倒し、支配下におき、ローマ帝国の版図を広げていく。この紀元前51年にガリア戦記が出され、これを読んだローマ市民は大変興奮したというが、さもありなん。


 一方、ローマ軍に蹂躙される、ガリー人の悲劇もみえる。
食料を奪われ、
土地や財産を奪われ、
税を課せられ、
奴隷にされ、
人質を強要され、
なかには、畑や穀物庫、その他建物を焼かれ、
そして、自由を奪われる。


 幾度となくガリー人はローマに対し反旗をひるがえるが、その理由を敵対しているカエサル自身、自由を取り戻すためだ、と何度も書き記している。


 本書でここで「自由」と訳されていると言葉が、今使われている「自由」と全く同じ概念かどうか少し疑問だが、当時のローマやガリアにある程度「自由」という概念があり、そしてそれは大切なものだという認識があったのだろう。かつ、ガリアにとっての侵略者カエサルは、相手に対しその言葉を使えたのだ。


 カエサル率いるローマ軍は何故強かったのか?
行動が早い、迅速に決断し、迅速に移動し、常に相手の意表を突く。
不利な状況ではできるだけ戦わない。自分は有利な場所に陣取り、相手を誘い出す。
なお、食料は現地調達しているようで、そこは、現代の戦争では考えられないな、と感じた。


 本書にはガリア戦記の解説がついているが、その解説がすばらしい。当時のローマや、カエサル、そしてガリアの状況がよくわかる。訳者が意図しているように、ローマ市民になったつもりでガリア戦記を楽しむことができる。

メモ 本書解説より

(たんなる遠征の記録であるガリア戦記が、昔から今まで、これほど注目され、価値があるものとされたのか?
カエサルによって、ローマ帝国は大きく領土を拡大し、元首制へと向かうことになり、西洋文明の礎が築かれた。このような史上名だたる英雄が、自分の征服事業についてみずから記し書物として世に出したものだから。②歴史資料になるから。部隊編成、武器、戦闘における部隊の動き、当事者の思慮、ガリアの様子(ガリー人は書き物を残さなかった)③簡潔でわかりやすく、名文だから)p5〜


(ローマ軍が強いわけ
良く訓練した。軍事技術を一つの科学として研究。最先端の大型兵器。敵は諸部族にわかれていて、統率がうまくとれていなかった。)p86


カエサルが、ガリア遠征記を著した、二つの説。
一つはローマ史上最大の事業が歴史家によって後世に正確に伝えられるよう。
もう一つはローマ市民に対し自己の輝かしい業績を印象づけ、ガリア総督中にとった独断的行動を正当化し、帰国後の政争を有利に運ぶため。
後者の方がより真実だろう。
そのための工夫↓
三人称。簡潔な表現。自分に有利な情報だけでなく、不利な情報も。数字を記す。あやしいところは情報源の明示。ガリアの様子、ガリア人の風俗も記録。激しい戦闘の場面や白熱した議論の様子などを、興奮にみちた具体的な光景を随所に織り込む。)p99