ルポ 貧困大国アメリカ

おすすめ!
ルポ 貧困大国アメリ
堤未果 2008 岩波書店

内容、折口より

貧困層は最貧困層へ、中流の人々も尋常ならざるペースで貧困層へと転落していく。急激に進む社会の二極化の足元で何が起きているのか。追いやられる人々の肉声を通して、その現状を報告する。弱者を食いものにし一部の富者が潤ってゆくという世界構造の中で、それでもあきらめず、この流れに抵抗しようとする人々の「新しい戦略」とは何か。

感想

 本書は、アメリカで起きている格差の拡大、貧困層の増加を指摘し、彼らをターゲットとした貧困ビジネスの例をあげる。サブプライムローンや、学校給食、ファストフード、災害対策、教育、医療、保険、戦争、戦争請負会社などなど。高額な学費に苦しめられ、保険がないので病院にも行けないといった事例が紹介される。
そして、「そこでは「弱者」が食いものにされ、人間らしく生きるための生存権を奪われた挙げ句、使い捨てにされていく。」p9、と結論づける。
この見方、問題の指摘には賛成だ。
機会平等のみならず、ある程度結果も平等であった方が、社会全体は幸福になるという研究がある。なにより、貧困層の多くの人が生存権を脅かされている状況は、近代社会として看過できない。


 昨今、市場の自由化を幅広く求める市場原理主義者の声が喧しいが、本書でも指摘しているように「「教育」「いのち」「暮らし」という、国民に責任を負うべき政府の主要業務が「民営化」され、市場の論理で回される」p10ようになって、本当にいいのか。結果、どのような結果が待ち受けるのか。そのいくつかの例を本書は示してくれる。
 もちろん市場の論理は大切にすべきだと思う。様々な分野において、もっと導入してもいいと思う。
しかし市場原理主義者の意見の多くは、「市場の失敗」という中学校で習う程度のことすら踏まえていないようで、頭が痛くなる。日本において自由化はより必要だとは思うが、もう少し落ち着いて中身の濃い議論ができないものだろうか。


 さて、本来生存権に直接関わる分野にまで市場主義を導入したがため、経済弱者が食いものにされ、悲惨な状況に捨て置かれた例を豊富に紹介する本書だが、最も僕に強烈だったのが、学生の軍隊への勧誘である。
 軍は、あま〜い蜜を用意して勧誘をかける。イラク戦争の最中だからというのもあり、多くの兵士が必要なのだろう。しかしその甘い蜜というのが贅沢でもなんでもなくて、大学の費用(奨学金)であったり、医療保険であったり、市民権の取得なのだ。貧困につけこんだ蜜といえるだろう。
 いやそれだけじゃない。これは同時に、貧困に対する公的セーフティネットが欠如していることにつけこんだ、卑劣な蜜だと思う。
《「もはや徴兵制など必要ないのです」
「政府は格差を拡大する政策を次々に打ち出すだけでいいのです。経済的に追いつめられた国民は、黙っていてもイデオロギーのためではなく生活苦から戦争に行ってくれますから。」》p177


 「ルポ 貧困大国アメリカ」は結構話題になった。今から十年後、
この本がどのように位置づけられるのか? 僕はそれを見定めたい。

メモ

「「サブプライムローン問題」は単なる金融の話ではなく、過激な市場原理が経済的「弱者」を食いものにした


貧困ビジネス」一つだ。(ry)貧困層をターゲットに市場を拡大するビジネスのことを指す」p6


「グローバル市場において最も効率よく利益を生み出すものの一つに弱者を食いものにする「貧困ビジネス」があるが、その国家レベルのものが「戦争」だ。」p146