新しい市場のつくりかた 明日のための「余談の多い」経済学
新しい市場のつくりかた 明日のための「余談の多い」経済学
三宅 秀道 2012 東洋経済新報社
感想
○企業の発展や存続のために、既存の商品をひたすらにブラッシュアップするだけでなく、「新しい市場」をつくっていくことの重要性を説く。この《市場をつくる》という視点は、企業にとって大切だなあ、と本書を読み感じさせられた。そして新しい市場をつくってきた企業やその中の人たちはすごいなあ、と感じさせられた。
著者は次のことを述べている。
【新しい市場をつくるには《問題を発明》する必要がある。それ以前には何ら問題ではなかった対象。当然のこととして見過ごされていた対象。そういうものをより「しあわせ」になるために、もう一度考え直して、問題を発明する。創造的に問題を設定する。問題とその解決策を提示する。そして、社会のライフスタイルのありよう、つまり価値観や文化そのものを変えてしまう商品企画が大事。】
重要な指摘だと思う。
著者はその例を豊富にあげており、中高齢者の水中運動のためで体が冷えにくい水着や、ラグジュアリー感を向上させたハーレーダビッドソンが紹介されていた。
新商品をみるにつけ、開発者たちの思いとか、社会に対する挑戦をくみ取れたら、一消費者としてはなかなかおもしろいかも。社会がより豊かにみえるかも。
○ただ、本書には難点もある。それは成功した企業しか分析していない、ということだ。
本書にはしっかりとしたビジョンをもって、新しい市場をきりひらき、成功をおさめた企業の話が紹介されている。
しかし、逆の例はなかったのか。すなわち。しっかりとしたビジョンをもって商品を企画したにもかかわらず市場から受け入れられず失敗して、大損してしまった例である。もちろん、僕自身、そういう例が思い浮かぶわけではない(初期のPS3とかそれに近くないかな)。だけど、市場の激しい栄枯盛衰のなかには既存のライフスタイルに創造的に挑戦するような、そしてそれでも失敗した例はあるはず。
本書のように成功した例だけを羅列しても議論は深まらないだろう。
新しい市場をつくることが大切、という指摘は、ほとんど論証しなくてもすむような確実性の高い主張である。
ゆえに重要なのは成功した例だけでなく、問題を発明したにも関わらず失敗に終わった例も紹介、検討することで、新しい市場をつくることについての議論を深まていくことではないか。それが欠けている点、本書はもったいないし、中身が薄いといわれてもしようがない。
○約350ページにわたる分厚い本だが、同じ指摘の繰り返しが多すぎる。長すぎ。本の厚さにみあった中身はない。
メモ
○過去に成功体験をもつ企業ほど、新しい市場のつくりかたを考えていない
○新商品のアイデアを思いつくには、自分の外ではなく、自分の内部から生まれた意識に目を向け、そしてそれを正しくしようという、ある種の傲慢さが必要。
○「どういう世界が望ましくて、自分はそれにどうやって今の世界を近づけていきたいのか、そのために自分は何をしていくのか、そのツールとしてどんな商品を自分は開発するのか、という意識」p335が、新しい価値を創造するうえで大事。
○現代は職場や地域社会がコミュニティとしての役割をはたし得なくなった時代。そのため、寂しさが問題となる時代。
だから、つながりやコミュニティを提供できる商品やイメージ戦略が大切になっている。