閉ざされた言語空間 (占領軍の検閲と戦後日本)

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閉ざされた言語空間 (占領軍の検閲と戦後日本)
江藤淳 H0年 文藝春秋

内容(「BOOK」データベースより)

さきの大戦の終結後、日本はアメリカの軍隊によって占領された。そしてアメリカは、占領下日本での検閲を周到に準備し、実行した。それは日本の思想と文化とを殱滅するためだった。検閲がもたらしたものは、日本人の自己破壊による新しいタブーの自己増殖である。膨大な一次資料によって跡づけられる、秘匿された検閲の全貌。

雑感

米国が、戦後の日本で行った検閲について。
アメリカに保存されていた一次史料をもとに、調査分析し、明らかにしている。
ほとんどの主張に、アメリカやアメリカの検閲隊が収集した資料を提示しているので、説得力がある。
自由を標榜しているはずのアメリカは、日本を統治したとき、厳重な検閲システムをしいた。
その検閲は、新聞や雑誌はもちろん、私人の手紙にまで及んでいた。
アメリカが行った検閲は、極めて悪質なものだと思う。なぜなら、検閲の存在が巧妙にかつ強力に隠匿されていたからである。一般の市民は検閲されていることを知らされなかった。そう考えると、戦中、大日本帝国政府が行った検閲の方がずっとましだったわけだ。なぜなら、検閲されていることが、どうどうと法律に明記され、検閲された部分は部分は黒塗りにするなど、検閲の存在が明らかだったから。
検閲された後の情報にしか接していないにもかかわらず、自由な言論のもとにいると考える方が、言論と思想に対する悪影響は大きい。


アメリカは治安を維持するためにだけ検閲をしていたわけでなかったことが本書では明らかにされている。アメリカが行った検閲は、日本が行った先の大戦に対する考え方を強制的に、そして無意識的に変革させよう(歪めよう)としたものだった。例えば、「大東亜戦争」ではなく、「太平洋戦争」という表現の強制。
これは名詞を変えているだけじゃない。先の大戦をどうとらえるかという「ものの見方」まで、アメリカは日本市民に無意識的に変革させたのだ。
アメリカは、自国への批判をこっそり封じ込み、自分たちの都合の良いような世論になるよう、マスコミを誘導した。
また、東京裁判の近くでは、東條英機元首相に対する同情的な論調が、日の目を見ないように検閲していた。


本書では、マスコミの問題点も指摘されている。巧妙な飴と鞭に、マスコミはアメリカの共犯者になっていった、というのである。


現在、日本に住み、日本語を使うものは、ぜひ本書を読むべきだ。アメリカによる検閲は終わったとはいえ、今日でもその影響は大きく、今だに私たちは「閉ざされた言語空間」にいるのである。

メモ

アメリカの占領とその検閲によって)「やがてそこに現出するのは、そのなかで、〝民主主義〟、〝言論・表現の自由〟等々が極度に物神化され、拝跪の対象となる一方、現実の言語空間は逆に「厳格」に拘束されて不自由化し、無限に閉ざされて行くという不思議な状況である。」p130


「新聞は、連合国最高司令官という外国権力の代表者の完全な管理下に置かれ、その「政策ないしは意見」、要するに彼の代表する価値の代弁者に変質させられた。検閲が、新聞以下の言論機関を対象とする忠誠審査のシステムでtることはいうまでもない。かくのごときものが、あたえられたという「言論の自由」なるものの実体であった。それは正確に、日本の言論機関に対する転向の強制にほかならなかった。」p175


(戦前、戦中の「出版法」「新聞紙法」「言論集会結社等臨時取締法」などによる検閲は、いずれも法律によって明示されていた検閲であり、非検閲者も国民もともに検閲者が誰であるかをよく知っていた。タブーに触れないことを意図していたのである。しかし、アメリカの検閲は、隠されて検閲が実施されているというタブーに、マスコミを共犯関係として誘い込むことで、アメリカの意思を広めることを意図していた。)p190


アメリカは、日本人の私人の手紙をランダムに開封することで、世論の動向を調査していた。)p214