戦後史の正体

戦後史の正体
孫崎 享 2012 創元社

内容、アマゾンより

日本の戦後史は、アメリカからの圧力を前提に考察しなければ、その本質が見えてこない。元外務省・国際情報局長という日本のインテリジェンス(諜報)部門のトップで、「日本の外務省が生んだ唯一の国家戦略家」と呼ばれる著者が、これまでのタブーを破り、日米関係と戦後70年の真実について語る。

感想

○日本を戦争で破り、一時期占領下におくとともに、現在でも世界一の経済力と他国を圧倒的な軍事力をほこる超大国アメリカに対し、日本の政治家はどのような外交を行ってきたか、という視点を設定。勝者と敗者という日本とアメリカとの関係やアメリカの圧倒的パワー、裏も表も駆使するアメリカの外交力、国の防衛をアメリカに依存していることを鑑みても、「アメリカにどう対応したか?」という視点は、日本の外交を考えていくうえでもっとも重要なファクターだろう。

この視点から戦後を担ってきた政治家を、自主路線派と対米追従派に分け、彼らのせめぎ合いやアメリカの干渉を暴こうとする。よく知られていることだが、本書を読めばあらためて、いかにアメリカの都合で日本が翻弄されてきたのか痛感させられる。著者も述べているように、アメリカ様の世界戦略によって、アメリカにおける対日外交の重要性も、対日戦略もくるくる変わっている。

日本国は今後も、超大国アメリカの大きな影響を受けざるを得ない。むしろここは、ロビーイングや他国との関係によってアメリカの対日戦略が、日本の都合のいいようになるよう日本側も主体的に行動していくことが、国益のために求められるだろう。
「世界中の国々の歴史は、大国との関係によって決まります。そのことがわかれば、自国の歴史も国際情勢も、まるで霧が晴れるようにくっきり見えてくるのです。
 だから私は本書のなかで、日本の戦後史を、このふたつの路線の戦いとして描いてみようと思います。「「自主」と「対米追随」、このふたつの路線のあいだで最適な回答を出すことが、これからも日本人には求められつづけられる」p 酈

もちろん超大国アメリカの圧力、という視点だけで歴史の全てを知った気になるのは傲慢だ。しかし、このように一つの重要な視点を設定し、そこから歴史を分析してみようというのはおもしろいし、意義のあることだと思う。この集積が、多面的で立体感のある歴史研究・歴史認識につながっていくのだと思うのだ。

インターネットで軽く本書の書評を拾ってみると、本書にはアメリカ側の証言と食い違う点や国際政治学上の常識と反する点もあるようだ。書いていることは鵜呑みにしないようにしよう。けれどもやはり、アメリカの圧力という視点は、戦後の歴史を振り返り整理する上で、大変重要だと思うのだ。

「孫崎氏の著書は、アメリカ側の誰かと日本側の誰かとの間で、具体的な「謀議」があって、そのアメリカ側の指示に日本の政治や行政がそのまま動かされてきたというような「単純な支配従属の構図」だったと言っているわけではない。むしろ、孫崎氏の戦後史には、「謀略」という単純な構図ではなく、政治、行政、マスコミ等の複雑な関係が交錯して、アメリカの影響が日本の戦後史の基軸になっていく構図が、極めてロジカルに描かれている。従来の「陰謀論」とは一線を画した、具体的な資料に基づく、リアリティにあふれるものであるからこそ、多くの読者の共感を得ていると言うべきであろう。」

郷原信郎 : http://nobuogohara.wordpress.com/2012/09/30/%e5%ad%ab%e5%b4%8e%e4%ba%a8%e8%91%97%e3%80%8c%e6%88%a6%e5%be%8c%e5%8f%b2%e3%81%ae%e6%ad%a3%e4%bd%93%e3%80%8d%e3%81%b8%e3%81%ae%e6%9c%9d%e6%97%a5%e6%9b%b8%e8%a9%95%e3%81%ae%e4%b8%8d%e5%8f%af%e8%a7%a3/

○著者は自主路線派。その視線で本書をまとめている。
僕もこの姿勢に共感。
「日本には日本独自の価値がある。それは米国とかならずしもいっしょではない。力の強い米国に対して、どこまで自分の価値をつらぬけるか、それが外交だ。」p 醃

○外交の現場で仕事をしてきた人が、その経験をふまえて歴史を整理した本書は、大きな意義のある仕事の結果だ、と思わされた。

メモ

(多くの政治家が、対米追随と自主路線で苦悩。自主路線をとろうとした、あるいはとった政治家の多くが排斥されている。アメリカは高いポストの人間だけでなく、現場の人間にも圧力をかけることがあった。アメリカだけでなく、日本の対米追随派も圧力をかける。)p8

(これまで多くの裏工作によって、歴史が動いてきた。)p12

「日本は敗戦後、大変な経済困難にあります。このなかで、六年間で約5000億円、国家予算の二割から三割を米軍の経費にあてている」p63

(占領下、日本のアメリカ研究者たちは、アメリカの資金援助を受けていたため、アメリカを批判できない構図になっていた。)p135

(北方領土が未だ解決していないのは、アメリカがちゃちゃを入れたから。植民地が団結して対抗しないように、植民地から撤退するときに紛争の火種を残すのはよく使われる手段。)p172

(安保条約は、都合の悪いことは国民に隠して結ばれた。著しく不平等な内容。)

(欧米が植民地支配をするときは、少数派と手を組む。主流派は、別に外国と手を組まなくても支配者になれる。そうできない少数派につけこむ。)p220

(冷戦後、CIAは日本の経済力を米国の敵と位置づけ、対日工作を大々的に行うようになる)p322

(特捜部は、日本人が隠したお宝をGHQに差し出す機関としてスタート。創設当初から米国と密接な関係にあった。)(占領期、アメリカは日本の大手マスコミの中に「米国と特別な関係をもつ人々」を育成)p369