世の中に絶えて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし

 世の中に絶えて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし
                           在原業平


 ああ、この世に桜なんてものがなけりゃあ、心穏やかに春が過ごせるのになぁ。 ってな感じの意味です。


 さてここで課題です。( )を埋めてみましょう!


世の中に 絶えて ( )のなかりせば 春の心はのどけからまし





 皆さん何が思いつきましたか?




  
 私は「科学」を思いつきました。


 これを私に例示した大学講師は、「宗教」をあげていました(たぶんそれは転写でしょう)。


 他にも、夢、将来、恋、愛、友情、自然の美、死、生、野望、時間、他人、、、等があげられるでしょう。




 私の思いついた、「科学」について。これは近代合理主義精神と言い換えても良い。


 世の中に 絶えて 近代合理主義精神がなかりせば 春の心はのどけからまし


 近代合理主義精神。それは、私たちの考え方の根本、この自由な世界の根源、圧倒的な科学力の中枢。市民革命と産業革命を生み、かつそれらから生まれた。


 市民革命・産業革命は民主主義・科学技術の発展と不可分である。そして、それらと混じり合いながら次第に醸成されていったのが近代合理主義精神だ。近代合理主義精神の醸成は、民主主義や科学技術の発展とある意味同義である。


 その近代合理主義精神(科学技術、民主主義)は、人を幸せにしただろうか?


 簡単に、してないとも言えない。


 だからといって、したとも言えない。


 皮肉にも、老子が危惧していたような世界になってしまった。けれども私はこの世界を否定しないし、むしろ老子の夢見た世界より歓迎する。だが、そうはいってもやはり、科学・民主主義、そしてそれとともに生まれた近代合理主義精神がなければ心穏やかな時が流れたのは事実だろう。


 鼠や鮪や蛇のように。


 楠や苔や羊歯のように。


《20060510の記事》