「戦争」の心理学 人間における戦闘のメカニズム

「戦争」の心理学 人間における戦闘のメカニズム
デーヴ・グロスマン (著),ローレン・W・クリステンセン (著) , 安原 和見 (翻訳)  原著2004 二見書房

内容(「BOOK」データベースより)

極限状況では心と身体になにが起きるのか?名著『戦争における「人殺し」の心理学』待望の続編!戦闘の心理と生理について徹底的に研究した衝撃の問題作。

感想

○読んでて胸くそ悪くなるような本だった。
なぜか? それは戦時におけるものとはいえ、人殺しに対する内観・内省がちっともないからだ。

本書の目的は、「裁くことでも非難することでもなく、ただ理解すること」だというが、嘘こけ!
凶悪犯罪が多いことを主張し読者を恐怖であおり立て、またアメリカが正義でありその他は悪であると何の説明もなしに決めつける。そうして過重な警戒感を読者に与えるとともに、アメリカの侵略戦争や、銃という凶悪な兵器を蔓延させている社会に対し、人間として思いを巡らさないよう、読者を盲目で愚鈍で政府に従順なサルに仕立て上げているのだ。
「戦士という言葉を嫌う人もいる。しかし、戦争をしている人は戦士ではないだろうか。いま私たちは犯罪との戦争をしているのではないか。麻薬との戦争はどうか。いまはテロリズムとの戦争の真っ最中ではないか。毎朝目を覚ますたびに、あなたを棺桶に入れて家族のもとへ送り届けてやると誓う人間がいるのでは?」p297

凶悪な犯罪者たちとやりとりしている人たちには大いなる敬意を表するが、だからといって多くの人々が命の危険性にさらされているわけではない。アメリカで凶悪犯罪が多いのは、作者みたいなバカマッチョが銃を礼賛し社会に蔓延させているからだろう。また麻薬密売組織みたいなのと、テロリズムを同列に論じるのは間違いである。麻薬密売組織は社会とっての敵だ。しかし、「テロリズム」は、自由主義や市場主義の暴力的押し付けに対する反発という側面がある。テロと麻薬組織を一緒くたにするなんて、自分たちアメリカ人がこれまで他の社会にどのような行為を働いてきたか、そして働いているか、全く見ようとしていない証拠だ。

著者は、戦闘を理解すべきだという。僕もそう思う。
筆者は、備えが必要だという。僕もある程度はそうだと思う。
筆者は、戦士を理解しろという。僕もそう思う。しかし著者のように戦士を単純に礼賛することはできない。戦士を生み出す社会。戦士を犠牲にして特定の人物が利を得ようとする社会。まずはこれを批判すべきだと思うのだ。その後、個々の戦士について称賛したり、同情したりすればいい。

マッチョは好きだけど、自己批判のないマッチョは、しかもそのことに気づいていないバカなマッチョは、大嫌いだ。

○本書では戦闘状態で生理や心理はどのような状態になるのか、たくさんの例をあげながら解説している。戦闘状態とは、戦争や凶悪犯罪者とのやりとりで生じる。まさに命のやりとりをする、自分の生死が一瞬で決まる極限の状況である。そのときの身体や精神の反応は、簡単に言えば、状況と同じように、極限状態になるのだといえる。
もちろん万人に共通するとは限らないわけだが、本書であげられ考察されている例を簡単に記そう。

失禁。心拍数の増加。戦闘行為は過大なストレス。重要なものに対し視覚や聴覚が鋭くなる。重要でないものに対し視覚や聴覚が全然反応しなくなる(気づかない)。時間感覚が遅くなる。記憶の欠落。記憶のゆがみ。訓練した通りのことしかできなくなる。などなど。

これらの豊富な具体例を読むと、ハリウッド映画の銃撃戦で、登場人物たちが平然としていることが多いが、非常にリアリティがないように感じるようになった。

第二次世界大戦での米軍の兵士の発砲率の低さが示されていておもしろかった。1人1人の判断で行動する場合、たった15%〜20%。殺人は本来、強いストレスを与えるとのこと。

○どうしたら有能な戦士を育成できるのか? というのも本書のテーマ。
人型のシルエットを標的にして訓練。これで発砲率が改善。条件付け。
ペイント弾で訓練。戦闘状況で生じるストレスに対する耐性をつける。命中率アップ。
訓練では攻撃を受けても、死んだふりをするのではなくて攻撃を続けさせることが重要。実践でもやられたらすぐ諦めるクセがつくためp228。
人を殺す前に十分に合理化・受容することで殺人に対するトラウマを減らせるp289

○凶悪犯罪の例が多く載せられている。戦闘状態を説明するための例だから当然か。本書はここから、自己防衛性の必要性を説く。一方僕が思ったのは、何で犯罪者が、これほどまでに、銃という凶悪で強力な兵器を持っているかということだ。銃が蔓延しているから、犯罪者が凶悪犯罪者になるのだ。

キリスト教の聖書の教えと、人殺しは相反する。それをどう精神的に処理するか、という章があった。
アメリカだなあ、と思った。