シラス地帯に生きる

おすすめ!
シラス地帯に生きる
佐野 武則 1997 春苑堂出版

内容、裏表紙より

シラスは南九州一帯に分布し、台地、急崖、低地などの地形を形作る。シラス台地に生きる人々は水に不自由するが、その崖下には豊富な湧水がある。先人たちはこの土地に努力と工夫によってシラス文化の足跡を残してきた。

感想

鹿児島に住んでいる人にはとてもおすすめ!
シラス台地は鹿児島に特有の地形であるが、シラスはまばらに存在し鹿児島に限定的な影響を与えているのではない。鹿児島県の地形の多くはシラス由来であり、県民の生活に絶大な影響を与えてきた。
シラス台地の成り立ちはだいたい知っていたが、それやその特徴について詳しく知ることができ、本書を読んでから、土地を見る目が変わった。具体的には、(ああ、この川がシラス台地を削って低地を作ったんだなあ、削った跡が鋭い崖となって残ってるなあ、削られていないシラス台地の上に住宅街が広がってるなあ)などと、地形を見ながら感じるようになった。
地理的特徴や郷土の成り立ちを知るのは楽しい。そして、それを知りつつ、そこで生活するのはもっと楽しい。
シラスは高温の流体である火砕流が冷えて固まったものであり、それを川が削ると急峻な崖が生じ、残った部分はほとんど平らな大地として残る。シラス台地やそれが削られてできた低地は鹿児島県の中心である、鹿児島市のそこら中、至る所でも見られる。シラス台地やそこでの生活、その特徴を本書から以下にメモしておきたい。なおその不便さ故、シラス台地で広大な面積が残っている所(笠野原台地など)に人が住み始めたのは、江戸時代以降のことだそうだ。
  大地の上はほとんど平坦。
  もろく、浸食が進みやすいため急峻な崖が生じる。
  もろいため崖崩れが多い。
  低地との移動がたいへん。
  急峻な部分が山城として使われたことも。
  やせた土地。
  水はけが良すぎる。旱害に遭いやすい。
  非常に深く掘らないと水が出ない。
  ある程度標高があり、かつ平坦なため、風が強い。台風の被害に遭いやすい。(対策として住宅の周りを木で囲む)
  大地と低地の境の、低地側からは豊富なわき水

僕は県内最大のシラス台地である、笠野原台地にすんでおり、興味深かったのでその歴史、戦前の様子を簡単にメモしておきたい。
1704年、笠野原
1784年、富ヶ尾 に集落がつくられ、以降少しずつ増えていく。
人口過剰な薩摩半島から大隅半島へ人間を移そうという島津藩の政策。
それでも笠野原台地は人口希薄な原野がなお広がる。
大地中央の開発は士族が主。
深くまで掘らないと水が出ないため、井戸の水くみがたいへん。牛にさせる所も。
井戸を中心とする共同体。
台地周辺の人々はほとんど入植せず。
「笠野原台地は明治初年、まだ三分の一ぐらいしか開発されておらず、広漠たる台地の中にわずかに二十余りの集落が点在し、その周辺が少しばかり開発されているだけで、大部分はまだ山林・原野であった。見通しのきかない茅場や雑草の原野、背丈六、七メートルの松林、その間にところどころに開かれた耕地、防風林に厳重に囲まれたうす暗い集落、これが明治のころまでの笠野原台地の景観である」p66 →今ではすっかり住宅が広がっているけどね