戦闘技術の歴史5 東洋編

戦闘技術の歴史5 東洋編
マイケル・E. ハスキュー (著), クリステル ヨルゲンセン (著), クリス マクナブ (著), エリック ニデロスト (著), ロブ・S. ライス (著), 杉山 清彦 (監修), 徳永 優子 (翻訳), 中村 佐千江 (翻訳) 2016 創元社

内容、出版者ウェブサイトより

舞台は東アジア。13世紀のモンゴル帝国全盛の時代から19世紀中頃に勃発した第二次アヘン戦争までを扱う好評シリーズ第5巻。ロシア・カルカ河畔の戦いやモンゴルの襄陽・樊城包囲戦のほか、日本における文永・弘安の役長篠の戦い大坂夏の陣も取り上げる。兵器、装備を描いたカラーイラストや軍隊・兵士の動きを示した戦略地図も数多く掲載。歩兵や騎兵の役割、兵器の技術的進歩、指揮系統の発達、攻城戦や海戦の全容など、戦闘技術の歴史のすべてを伝えるシリーズ完結編。

感想

・東アジアに勃興した諸勢力の軍事や軍事行動(戦争)を紹介した本。網羅的なものではなく、数ある勢力や戦争から的をしぼって整理している。

・日本は研究が進んでいるためなのか、比較的扱いは大きい。

・個人的には「モンゴル帝国」の軍事力の特徴や勢力を広げていった戦争の紹介がおもしろかった。史上最大の帝国を築くという1つの偉業を成したのが「モンゴル帝国」だが、なじみが薄かったので。

・とあるブログで指摘している人がいたが、朝鮮出兵の記述は朝鮮側に視線が偏りすぎている、と思う。
海戦が重要な役割を果たしたということでちょうどよい素材だったのだろう。しかし近代以前の渡海作戦にもかかわらず、各地で朝鮮軍を駆逐し日本軍は半島のつけ根まで兵を進めている。300年以上前のこととはいえ、あのモンゴル帝国が日本に渡海作戦を仕掛けてきたときとは雲泥の差だ。豊臣の軍勢が失敗して撤退したのは事実だがあれだけの大戦争でほとんど海戦だけとりあげるのはバランスに欠いていると言わざるを得ない。

メモ

・本書は地理的にいえば日本列島からモンゴル高原をふくむユーラシア東方を中心にあつかう。また時間的にいえば12C〜19Cをあつかう。これはある程度信頼すべき史料が残され、研究の蓄積がある時期。そしてモンゴル帝国がユーラシアを制覇した時期と火器の普及によって戦術の革新が起こるという2つの重要な時期をふくんでいる。

・中国の軍事制度の特徴は、まず豊かな農業生産に支えられた巨大な兵員規模。人口稠密な中国では、古く戦国時代にあってすでに数十万規模の兵力を動員していた。
また、軍隊の統制に非常に注意が払われた。特定の軍人が力をもち反乱を起こさないよう、指揮権を分散させたり、そうして分散された軍事権力が少しずつ重複して個々人がもつよう工夫された。

・モンゴルをはじめとする遊牧的騎馬軍事力の特徴は、成人男子の牧民たちがすぐさま高い技能をもった騎馬戦士集団になること。騎馬戦士による迅速かつ長距離の高い移動力。高度な軍事作戦を集団で遂行しうる高い練度、組織力

朝鮮出兵に際し、日本軍は制海権に関する考慮が欠けていた。そこで火力を有効に発揮した朝鮮水軍に制海権を奪われ、補給や援軍ができなかった。