防衛装備庁 防衛産業とその将来

防衛装備庁 防衛産業とその将来
森本敏 編 2015 海竜社

内容、出版者ウェブサイトより

日本ではあまり語られませんが、「防衛装備移転三原則」への政策変更を行ったことは世界的な注目を集めました。この1年半に、日本には世界中からあらゆる装備品や装備技術に関する引き合いや要望が押し寄せるようになりました。その変化のありようは日本人として絶対に知っておきたいことです。

感想

森本敏 編」とあるが実際には軍事や軍事産業に従事している有識者の対談集となっている。

軍事品の輸出や移転について新たな方針がうちだされた。その背景やこれから対応していかなければならない諸問題についてよく勉強になる本。

読んでの感想は、解決しなければならないことがやはりたくさんあるんだな、ということ。

敗戦後、みずからの手足をしばり、国際的な軍事産業の市場から遠のいてきたツケは大きいんだなあ、と思ったしだい。顧客が自衛隊しかないため、装備品の単価が非常に高かったことはよく知られているが、これから国際市場にうってでようとしても、これまで目をつむってきた間に構築された取引システムや各国の情勢、意志決定の流れといった情報不足が足かせになっていることがよくわかった。

ただ、無理だと思ったらなんでも無理なんだろう。しかしなんとか時間をかけてでも少しずつでもキャッチアップしてほしいな、と日本の市民として素直に思う。

メモ

・2014年に閣議で「防衛装備の海外移転に関する新たな原則」が承認され次の2つが可能となった。
 ①アメリカをはじめ日本と安全保障面で協力関係にある諸国との国際共同開発・共同生産
 ②救難・輸送・警戒・監視・掃海に係る装備の海外移転

・上記の結果、各国から日本の装備技術に大きな関心が寄せられている。それもすぐれた民間技術や民生品の品質にもとづく好印象が背景にある。

・一方、装備品本体でいえば実経験がないため完成品に対する信頼感は低い。実際、具体的な完成品で関心が寄せられているのはUSー2と通常水力型潜水艦だけ。

日本に対する期待があるうちに結果を出すことが必要。

・日本の防衛産業にしろ商社にしろ、防衛装備における国際市場の動向や商売方法をあまり知らない。各国の政策や各国企業のトレンド、各国の意志決定のプロセス、政策の優先事項など、あらゆる面での情報を集める必要がある。
また官民ともにスピード感に欠けている。

・ここ1年の状況をみると、日本は各国の要望に対応する受け身の対応に終始。日本から提案するという能動的なアプローチはほとんどなされていない。
日本の新たな原則は外国に対する支援や援助のためではなく、日本の安全保障や防衛力を強化するためのもの。日本の能動的な姿勢が必要。

・軍事装備をもっている、というだけでなく、軍事産業を持っていることが、ひいては日本の防衛力に寄与する。

・USー2は、P3Cの後方支援の役割があり、P3Cが海難事故を起こしたときに、捜索・救護するミッションを担っている。実際、航続距離も同等で、機内の担架配置も、P3Cの乗員全員を救護できるように設計されている。

日本以外の国は、USー2に支えられて実現している迅速な外洋救難システムを持っていない。

・軍事用でも民生用でも使える技術をデュアルユースという。日本はこのデュアルユースが強み。諸外国との共同開発や共同生産で発言力を確保するために、この得意分野をいかしていくこと必要。

・主要な装備品メーカーのほとんどは民需との兼業。その防衛生産比率は1割に届くか届かないかで、このようなポートフィリオをもっている企業からすれば、海外にうってでて大きなリスクをとろうとする動機は低い。また、「武器商人」といったレッテルを貼られるのを危惧するむきもある。政府がイニシアティブをとることが必要。

アメリカからの軍事装備の調達が増えており、国産装備にまわされる予算が減っている。日本の軍事産業の、特に下請けに対する影響が懸念される。