卒アル写真で将来はわかる 知の心理学

卒アル写真で将来はわかる 知の心理学
マシュー ハーテンステイン著 森嶋マリ訳 原著2013 文藝春秋

内容、出版者ウェブサイトより

デポー大学で心理学部准教授をつとめるハーテンステイン先生は、人が将来を見抜く手がかりを研究する心理学者。彼は人の表情に隠された「手がかり」を確かめるために、卒業アルバムに着目した。20代から80代まで、650人以上の大学の卒業生の卒アル写真を集めて、笑顔の度合いを点数化。そして結婚生活がうまくいっているかどうかを尋ねると、あまり笑っていない人の離婚率は、満面の笑みの人の5倍にも達していた!

日本版のタイトルはこの驚くべき実験に由来している。ハーテンステイン先生は、この実験以外にも、人間の将来を見抜く「手がかり」についての学問的研究を集めて、一冊にまとめあげた。それがこの極めてユニークな本書だ。
たとえば、著名なゴットマン教授らの研究によれば、結婚が長続きする夫婦の会話では、否定的なことを1つ言ったら、肯定的なことが5つ言われる。しかしその割合が1対1になると、いずれ破局が訪れるという。さらに、カリフォルニア大学の心理学者エクマン教授は人のウソを見抜く方法を確立。1/12秒の瞬間の微表情、顔の筋肉、左右非対称な表情といった顔の情報と、声、話し方などの分析で、90%の精度でウソを見抜けるという。
他にも、フォーチュン500企業のCEOの顔写真だけで会社の業績がわかる、ヒップとウエストの比率だけでモテる女性がわかる、子供に選挙候補者の写真を見せればどちらが勝つかわかるなど、にわかに信じがたいような科学的事実が満載。

すべて、対照実験に基づいて統計的に得られた研究結果である。思いもよらぬところに隠された「手がかり」に気付かされ、ページをめくるたびに驚きと発見が連続する快作!

メモ

・他人の、外見や態度を極めて短い時間みるだけでの性格や特性(性格や知性、誠実さ、攻撃性)を判断した結果と、その人物をよく知る者が判断した結果は、ほぼ一致していた。

・笑顔で写真に写る人物は寿命が長い傾向にある。

・たった6秒間の講義の映像だけでくだした授業者への評価と、学期末に学生がくだした評価は一致した。

・人と交流する際に表現豊かで生き生きした人は、そうでない人よりも、温かく、社交的で、優秀で、目的意識が高く、個人的な能力も高いとみなされる。

・選挙の候補者の外見は、私たちの投票行動に影響を与えている。けれども私たちはそのことをすっかり忘れ、かつその影響力から逃れられずにいる。有権者としては外見ではなく政策で選ぶように心がけたい。

感想

○本書の内容を簡単にまとめると次のようになろう。
人が見せる一瞬の態度を観察することで、さまざまなことを予測しうる、である。例えば、選挙の結果や企業の利益、結婚生活がうまくいくかいかないか、など。

もちろん、「予測しうる」といってもそれは100%ではない。ただある程度有意といえるパーセンテージだそうだ。そして、本書で紹介されている例を読んでいると、人間は知らないうちにさまざまなシグナルを発しているんだな、と思った。あるいは人間の察知能力、予測能力は想像以上にすぐれているということか。また、人間は自分の想像以上に他者を見た目で判断している、か。

本書で紹介されている数々の事例はとても興味深いものだ。そうして人間の真理を解き明かすものだと思う。けれども、気をつけなければ差別を生みかねないものもある。例えばCEOの顔の横幅が広ければ広いほど、企業の業績がよい傾向があるそうだ。因果の向きが逆ではないか、というつっこみもあるが、この研究自体は人間の不思議を解き明かす一端にはなろう。しかし、これをもって顔の横幅が狭い人間は仕事ができないという結論を導いてしまうと、それは差別になってしまう。
また他者の見た目や仕草を見ての一瞬の判断がある程度信頼できてしまうからといって、それはそれで興味深い事実だが、その判断に縛られてしまってはより深く人間を知ることもできないし、人間関係を深めることもできまい。

そうした興味深さと怖さをあわせもった内容の本だった。

○本書は多数の研究結果を紹介しているが、あまり個々を詳しくは記していない。巻末に付された大量の「注」がそれを補おうとしているが、もう少し詳しく紹介してもよかったと思う。ショッキングな結果ほど慎重に論じる必要があるので。