私小説は亡びたが、・・・・・・

私小説は亡びたが、人々は『私』を征服したろうか。私小説はまた新しい形で現れて来るだろう。」


小林秀雄 「私小説論」より


私小説とは?】はてなダイアリーより

「作者の身の回りの出来事をそのまま材料にした小説のこと。
わたくし小説とも言う。
単に身辺雑記物であるだけでなく、読者が、主人公を作者と同一視し、小説の中だけでは得られない作者についての知識を補足しながら読むことが、書き手、読み手両方に前提されていた。」


小説は「私」を征服していない。小林は反語によってそう強烈に、私たちにつきつけている。


作品と作者は別物といえども、作品に作者の影響がないわけではない。作者の思想や経験は様々な形で、分かりやすく、あるいはこっそりと、作品に貫入することは免れ得ぬであろう。


それを意識的に長大化させたものが私小説であるとも言える。


作者は、私小説を書き、自身の生活の苦悩を描くことによって、人間とは何か、私とは何か、問おうとした。


もっともそれは何によっても不可能なことではある。
言語の限界、あるいは知覚認識の限界にいる「私」であっては。


私小説は下火になった。それでも作家は、私たちは、、、人間とは何かについて、私とは何かについて、、、問うことを止めない、止められない。


《20080526の記事》