ラ・ロシュフコー箴言集

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ラ・ロシュフコー箴言
二宮フサ訳 1989訳出 岩波書店


【アマゾンより】
原題は「人間考察もしくは処世訓と箴言」というフランス・モラリスト文学の最高傑作であり、ラ・ロシュフコー公爵フランソワ6世(1613-1680)の代表作である。扉に引用されている「われわれの美徳は、ほとんどの場合、偽装した悪徳に過ぎない」という一句はあまりに有名である。箴言として1、2行で語られるそのことばは私たち読者の人間観察に対する甘さや幻想を引きずり出し、それを粉々に破壊するほどの威力を持っている。


愛情、恋愛、友情、自己愛、欲求(名誉などに対する)など、人間の業の深いところにたじろぎもせずに切りこみを入れる短い文章。それが心地よいものとなるかどうかは読み手しだいである。その意味で必ずしも本書は「愛され親しまれる」本として存在することを許していないようである。それは解説者をして「ジャン=ジャック・ルソーからサルトルに至るまで、後世の多くの高名な読者に反発、怒り、苛立ちを感じさせ、槍玉にあげられる光栄に浴してきた、あくの強い刺激的な古典」と言わしめている。


確かにほかの文学者や詩人の格言集とは趣が異なり、ロマンチックな気分を誘わず、ノスタルジックな感傷を引き出さずに、ペシミスティックかつニヒルな見方で読者にその文章を託している。この1、2行に込められた挑戦的とも思える文章を批判しつつ読者が自己を吟味し、他を冷静に観察する、あるいはこれを契機に人間の罪深さや自己愛をお互いに手厳しく語り合うことを著者は望んでいるに違いない。


箴言集に付け加えて、考察と題された文章においても人間の真実の姿が暴き出されており、著者の人間のとらえかたが皮肉に見える分だけ余計に普遍的で真実味があることを読者は反発しつつも認めざるをえないだろう。(青山浩子)


【解説より】
 「『箴言集』はラ・ロシュフコー公爵フランソワ六世 Francois VI,duc de La Rochefoucauld(1613〜80)の代表作で、同時代のラ・ブリュウイエールの『カラクテール=人さまざま』とともに、フランスのモラリスト文学の最高傑作として今日に生きている作品である。しかもこれは、人びとに愛され親しまれる古典というよりも、ジャン=ジャック・ルソーからサルトルにいたるまで、後世の多くの高名な読者に反発、怒り、苛立ちを感じさせ、槍玉にあげられる光栄に浴してきた、あくの強い刺戟な古典なのである。」


【雑感】
 ネットをうろちょろしてるとき偶然、
「人間には、裏切ってやろうとたくらんだ裏切りより、心弱きがゆえの裏切りのほうが多いのだ」
という言葉を見つけた。この言葉こそ、このラ・ロシュフコー箴言集に入っている言葉だったのだ。それで本書に興味を持ち手に取った。


 箴言とは単文の名言みたいなもの。それがずらっと並んでいる。全体を眺めてみると、統一性に欠けていることがはっきりとわかるだろう。人間をどう見るか。簡単にいうと性善説をとるか?性悪説をとるか?。ロ・シュフコーの箴言にはそのどちらの視点も見られ、同じ点(例えば友人)に対し異なった見方を伝える箴言も散見される。解説によると、このような箴言(いわゆる名言)が社交場でもてはやされていた部分があるようで、軽い気持ちで作ったものも多いのだろう。この点と箴言自体の短さゆえ、ロ・シュフコーの箴言が哲学的に高度に練られているかといわれれば、疑問もつく


 しかし、社交場でもてはやされていたゆえのキリリとした言語センスは非常に高いと思う。皮肉のきき、子気味のよさ、言い回しの面白さは評価できる。少し極端な点もいいパプリカになっている。読んでいて楽しい。ラ・ロシュフコー自体が本気で言っているのか冗談で言っているのか、笑ってしまう箴言も多かった。例としては以下のようなものがあげられる。
「397 われわれは、自分は完全無欠で敵には長所が全くない、と全面的に言いきる勇気は持ち合わせないが、しかし、部分的にはそう思いこんでいる節がなくもない。」


 ほとんどの箴言で、人間を愚かなものとしてとらえている。滑稽さの中で考えさせられる箴言も多かった。


【気に入った箴言
「30 われわれの持っている力は意思よりも大きい。だから事を不可能だときめこむのは、往々にして自分自身に対する言い逃れなのだ。」


「68 恋を定義するのは難しい。強いて言えば、恋は心においては支配の情熱、知においては共感であり、、そして肉体においては、大いにもったいをつけて愛する人を所有しようとする、隠微な欲望にほかならない。」


「120 人ははっきりと裏切るつもりで裏切るよりも、弱さから裏切ることが多い。」


「296 少しも尊敬していない人を愛すのは難しい。しかし自分よりはるかに偉いと思う人を愛することも、それに劣らず難しい。」


「436 人間一般を知ることは、一人の人間を知るよりもたやすい。」


「441 友情においても恋においても、人は往々にして知っているいろいろなことによってよりも、知らないでいることのおかげで幸福になる。」


「MS67 王たちは人間を硬貨と同じに扱って、自分のつけたい価格をつける。そしてわれわれはその人間たちを、彼らのほんとうの値打ちではなく、その相場に従って遇するように強制されるのである。」


「MP45 真の友こそは、あらゆる宝の中で最も大きな宝であり、しかも人がそれを得ようと心がけることの最も少ない宝である。」


《20080129の記事》