「国語」の近代史(帝国日本と国語学者たち)

「国語」の近代史(帝国日本と国語学者たち)
安田敏朗 中央公論新社 2006


【カヴァー折口より】
明治維新後、日本は近代的な統一国家を目指し、ことばの地域差・階層差を解消するため「国語」を創始する。「国語」は国民統合の名の下に方言を抑圧し、帝国日本の膨張とともに植民地・占領地にも普及が図られていく。この「国語」を創り、国家の国語政策に深く関与したのが、国語学者であった。仮名文字化、ローマ字化、伝統重視派、普及促進派などの論争を通し、国家とともに歩んだ「国語」と国語学者たちの戦前・戦後を追う。


【雑感】
本書は、「国語」の成立過程を追うことで、「国語」が国民国家の制度を担うという人為的な機能と同時に、「歴史」「伝統」「文化」「民族」という精神的な要素が盛り込まれたことを指摘する本と言える。考察結果自体は非常にありきたりだが、歴史を追うこと自体が本書の目的なのでそれはまあよい。国語の成立過程はまあ、興味ある人はあるだろうし、重要な視点でもある。


本書の弱点であるが、その考察を受け入れる著者の態度があやふやであった。考察結果を当然だと捉えたり、問題だと捉えたり。どっちなんだよ、おい。学者のくせに近代を迎えるに当たって成立した国家への批判が幼稚。批判はかまわないんだけど、批判の中身が幼稚。


また、言葉と社会の問題をどのようにとらえていけばよいのかという「はじめに」にある問の考察は中身のないものだった。結局何がしたいのかよく分からない。


《20080402の記事》