冬の巨人

冬の巨人
古橋秀之 2007 徳間書店


【背表紙より】
終わりのない冬、果てのない凍土の只中を、休むことなく歩き続ける異形の巨人“ミール”。
その背に造り上げられた都市は、人々の暮らす世界そのものだった。都市の片隅に住む貧しい少年オーリャは、神学院教授ディエーニンの助手として、地上から、そして空からこの”世界”の在り方を垣間見、そこで光り輝く少女と出会う。“世界の外”から訪れた不思議な少女は、老い果てた都市になにをもたらすのか。そして、千年の歩みの果てに巨人がたどり着くところとは──


【雑感】
すてきな世界観だなと思って、読んでみた。雪嵐の吹き荒れる中を黙々と歩き続ける老巨人。そしてその背に都市を造りあげて住む人々。絵になるいい風景だ。ちょっと「ワンダと巨像」のパクりっぽいけど。


とまあかなり期待して読んだけど期待はずれ。とりあえず感想を列記する。


登場人物の性格設定が人為的作為的すぎて共感できない。
外市民と内市民の格差差別関係を描ききれていない。中途半端。
この特有の世界における歴史や信仰がきちんと解消されていない。
途中まで寓話的なわりにそれを意味不明なラストが台無しにしている。
寒さの描写や太陽の描写などこの特有の世界に生きる人々の感覚として描かれていない。現実を生きる私たちの感覚になっている。
魅力的な世界観が全く生かされていない。練り上げられていない。


本書を台無しにしている最大の理由は「登場人物の性格設定が人為的作為的過ぎる」ということである。純粋無垢な主人公に、気持ち悪いほど完成された人格を持つその師、少し白痴 なヒロイン、ツンデレなヒロイン二号、典型的に頑固頭の悪役。
ああ、気持ち悪い。


ファンタジーは独特で美しく絵になる世界を構築した時点で、すでにもう半分は成功したようなものだと私は考えている。それをある程度成し得ているだけに残念な小説だった。


《20080229の記事》