死の商人

死の商人
岡倉古志郎 1999 9 30(改訂版) 初版は1951年 新日本出版社


【雑感】
 死の商人。それは無数の罪のない人間に死をもたらす殺戮兵器を開発し生産し販売することで、利益を得る人々のことである。その例としてサー・バジル・ザハロフ、クルップ・、IGファルベン、デュポン、そして日本の財閥を取り上げている。


 本書の著者が言いだしたのか知らないが、死の商人というのは今や有名な言葉だ。彼らの本質的問題点は何よりそれが戦争によって、人々の対立によって、人々の殺し合いによって利益を得る点だろう。彼らは戦争が在ればあるほど利益を得る。両者の憎しみを助長している例が散見された。多くの人が平和を夢みる時代に、戦争を本質的に求める人々がいるなんて全くバカげた話だ。著者も「『死の商人』ということばは、『死に神』を連想させる点で、ひじょうに適切なことばであるが、(略)」と皮肉たっぷりに書いている。


 軍需産業はその国に大きな利益をもたらす。アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国、ドイツなど。武器輸出国を上から見てみるとなんと、国連の常任理事国が勢揃いされているではないか。アメリカをはじめとする、世界平和に対して責任を持つはずの常任理事国が破壊兵器を売って莫大な利潤を得ているのだ。さらに、戦争は景気回復のカンフル剤ともなっている。


 戦争が起きることによって莫大な利益を手にする死の商人の存在は、戦争を引き起こす根元的な原因ともいえる極めて根の深い問題だろう。死の商人は戦争を肯定する強大な権力として重要なワードだ。何よりも優先して問題化すべき極めて大きく根深い事象である。


 他国への武器輸出禁止はよくいわれる解決策の一つだ。国家間で兵力に差がつくという批判も言われるが有力な手だての一つだろう。だが、軍需産業をもつ国がその利益を手放すまい。


 また、死の商人に類する重要なワードとして 軍産複合体 がある。軍事を民間に委託し、軍部と軍需産業が結び付いたことで、民間から政府へ兵器の消費や兵器開発の圧力がかかる問題だ。これも死の商人と同じく戦争を本質的に求めるというシステムになってしまっている。


 一般人がこれらの問題をどれほど意識しているだろう。解決への道筋は果てしなく遠いが、まずはみんなが知ることが解決への第一歩だろう。僕にはそれしか言えない。


死の商人とは? ウィキペディアより】
死の商人(しのしょうにん)は営利目的で武器を販売する商人の別称。


19世紀から冷戦期にかけては武器の生産、販売元はアメリカ合衆国ソ連、フランス等の国が中心で、冷戦時においてもこれらの国の政府や企業が直接当事者・当事国に販売するケースが多かった。しかし、冷戦終結後は、これらの国や企業が様々な理由から当事者・当事国に直接武器を売ることが出来ないことがあり、その場合、武器商人(=「死の商人」)を経由して売る事が多いといわれる。これらの理由から近年は豊富な資金源のある個人が武器商人の中心になってきている。


合法、非合法を問わず、紛争当事国やテロリスト、第三諸国(アフリカ、中東諸国)に武器を売っており、それが少年兵や犯罪者に手軽に銃が渡ってしまうので非常に問題ではあるが、死の商人達は各国の政府上層部や諜報機関と深い関係があるために、これらの武器売買の行為を暴くことは、自国の暗部の行為を暴くことになってしまうのであまり摘発されないのが実情である。また、近年は武器生産、販売国として中華人民共和国北朝鮮パキスタンなどの新興工業国が急速に勢力を伸ばして来ているといわれている。


軍産複合体とは? ウィキペディアより】
軍産複合体(ぐんさんふくごうたい、英:Military-industrial complex)とは軍部と軍需産業とが結びつき、政府に大きな影響を及ぼしている体制をさす。産軍複合体(さんぐんふくごうたい)、産軍共同体(さんぐんきょうどうたい)とも称する。


この複合体は第二次世界大戦中、ナチス・ドイツの新兵器開発に対抗するために形成され始めた。この体制は大戦終結とともに解体されるべきだったが、ソ連との対立が始まったためより重要性が増し、冷戦を通して拡大を続けて政府やアメリカ社会に巨大な影響力を持つにいたった。


アメリカのアイゼンハワー大統領が1961年、離任演説の際に用いて、肥大化する合衆国の軍需産業と軍およびその癒着構造に警戒するよう呼びかけた。軍歴によって知名度を得ていたアイゼンハワー大統領自身によってこのような発言がなされたことは大きな意味を持つ。当時はさしたる反応もなかったが、アメリカが世界各地の戦争・紛争に介入し、特にイラク戦争以降、注目されるようになった。


長年に渡りアメリカ政府と軍需産業の癒着が続いた結果、アメリカのほぼ全ての州に軍需産業が存在し巨大な利権を生む構造が出来上がっており各州の国会議員は圧力団体として彼らの意見を無視する事はできなくなっている。この複合体の意向が合衆国の介入する戦争や紛争を増加させていると指摘される。ベトナム戦争反対派だったケネディ大統領の暗殺事件にも軍産複合体に属する勢力の意向が関わっていたのではないかとする一説がある。


《20070528の記事》