死んだ魚を見ないわけ

死んだ魚を見ないわけ
河井智康 H11 8 25 角川書店


【本書の主張】
 私達はほとんどめったに死んだ魚を見ることはない。トロール網で海底をさらってもそこに死んだ魚を見つけることはない。元気な魚が捕れるだけだ。しかしそもそも、魚(特に硬骨魚類)は陸上の生物に比べ桁違いの数の卵を産む。だから、桁違いの魚が死んでいるはずである。なのになぜ、死んだ魚が見つからないのか?


 まず思いつくのは、死んだ後、海底で掃除屋ともいうべき生物たちによって分解・処理されてしまうということである。しかしどうやらそれは見当違いのようだ。海底に魚の死骸をおいて実験したが、瞬く間に食べられてしまうということはなかった。特に骨は長く残るようである。


 では、なぜ死んだ魚が見つからないのだろう? それは魚が死ぬ前に他の動物にほとんど食われてしまうからである。大量の仔魚の死亡は魚肉性魚類の場合、共食いで説明できるし、プランクトン食性魚類の場合、大型のプランクトンによる食害によって説明できるのだ。


【雑感】
 魚は大量の卵を産む。しいては、大量の魚が生まれ、死んでいるはず。なのに魚の死体を見ることはない、なぜだろう? というのはなかなかおもしろい視点である。魚の死体がどこにいくかという問題は単に人間の好奇心を刺激するのみならず、魚がどのように死んでいくかという問題につながっており、漁獲量を考える上で重要だそうだ。


 けれども、どうしても得心がいかない部分があった。死体が見つからないことがそこまで不思議なのだろうか? よく考えれば通常、生物の死体を見ることはそれほど無い。特に大型の哺乳類であればそうだろう。


 確かに私たちは自然から隔離された生活を送っているといえる。しかしやはり、自然にとけ込んだ生活をしたとしても生物の死体を見ることは希なことではないのだろうか? 海だけ魚の死骸がそうそう見つからないよと言われてもいまいちピンとこない。魚が大量の卵を残すとてその圧倒的ほとんどはごくごく小さいうちに死ぬはずだ。それが見つからないといっても当然だろう。しかも海は人間に想像が難しいくらい広大だ。


 著者の推論がいまだに支持されているのか分からないが、魚が、他の生物に比べ生きているうちに食べられることによって死ぬということで特徴づけられるのであれば、それはそれでおもしろく重要な魚の特徴なのだろう。


 なお、クジラはどうなのだろうか? 近年個体数が増えているにもかかわらず、死体がよく見つかるという話は聞いたことがないのだが・・・


《20070526の記事》