「笹で一面覆われた薄緑色の島」のお話

男2人で小さな島を旅行した帰り。


  島は、人口100人とちょっとで、しいていえば、ヒョウタンのような形をしている。


大和(民宿のおばあちゃんは、本土のことをそう呼んだんだ)行きの船の中。


  もちろん島にはホテルなどなく、3件の民宿があるのみ。


時間をもてあました2人は、集団船室で毛布を軽くかぶり、寝っ転がりながらぼんやりとニュースを見た。


  釣り目的で島を訪れる人が多い。


何のニュースだったかは忘れた。


  多くの島民は、牛を出産させ、小牛を出荷することで、生計をたてていると聞く。


ニュースについて、男は男に意見を求めた。


  島には駐在所もない。


男は長い間逡巡した末、こみ上げるものを抑えるようにこう答えた。


  ギラギラの晴天じゃないせいか、島の海は、澄みきった碧といった色を僕たちに見せたわけじゃないけれど、穏やかで、新鮮な潮の香ごと、僕は深呼吸した。


「そんなの分かるわけないじゃないか」


  原付に乗って2人で島をまわったけれど、捨てられた田んぼや畑がいたるところに見られた。


「物事を判断するための、十分で正確な情報など手に入りやしない」


  島には野生の牛がいて、まっ黒なそいつらは、道路で寝っ転がっていたけれど、近づいたらしっかりと角を向けてくる。


「人間には限界があって、Aの事情も、Bの事情も、Cの事情もといったふうに、全ての事情なんて所詮、把握できないんだよ」


 島をぐるっとまわる林道沿いの崖の下には、大量の廃棄物が捨ててあった。


「人間には、あるがままの本当の世界を認知して、正しい判断をくだすことなんて、絶対にできないんだよ!」

  人間の腰ほどの高さの笹に覆われた標高250メートルほどの山頂に立ち、ぽつぽつと雲の流れる澄みきった青空と、笹で一面覆われた薄緑色の島と、ちょこちょこと島にへばりつく茶色の人家を見ると、島は人の手を、ゆっくりゆっくりと離れていってるように思えた。