人類がたどってきた道 “文化の多様化”の起源を探る

人類がたどってきた道 “文化の多様化”の起源を探る
海部陽介 2005 日本放送出版協会

内容、カバー折口より

人間の創造性の根源を解き明かす。文明を築き、ロボットや宇宙旅行までも可能にする私たちの創造性。この能力ゆえに私たちの文化は発展し、多様化した。世界各地で進められている遺跡調査から、今、私たちの創造性の起源が見えてきつつある。私たちの種、ホモ・サピエンスのアフリカにおける進化、そして5万年前に始まった祖先たちの世界拡散という人類最大のドラマを、最新の研究成果に基づいて鮮やかに描出、私たちの由来と、多様な地域文化の成立を解き明かす気鋭の労作。

感想

本書は先史時代をあつかう。アフリカ大陸で誕生したホモ・サピエンスは、そこから世界中に分布を広げた。ヨーロッパからユーラシアを東へ進み、極寒のシベリアまで到達。その後アメリカ大陸へ。また東南アジアからオーストラリア大陸や広大な太平洋に点在する島々にまで。

他の動植物は、身体構造の生物学的進化により、種分化することで環境の違いを克服し分布域を広げている。一方人類は、気温や植生といったさまざまな環境変化に対し、それに対応した文化を発達させることで克服した。(身体的形質も多少は変化したが、種分化するほどではない)

本書は先史時代に、どのような技術を発達(分化)させて(ときに捨てさり)、人類がさまざまな環境に適応し、分布域を広げていったのか、論じたものである。

メモ

・ホモ・サピエンスは一つの種で、世界中の陸地に分布している。哺乳類のなかで極めて異例。

・ホモ・サピエンスは、五万年以上前にアフリカで共通の祖先が誕生したが、基本的な能力はこの時点にすでに確立。アフリカにいた共通の祖先は私たちそのものである。アフリカをはじめ、各地に分布していったホモ・サピエンスには、環境に適応するにあたって文化は異なれど、共通の特性(新しい土地への進出、道具の多様化と規格化、新しい技術、アクセサリー、絵や彫刻といった芸術、儀礼行為、地域地域による文化の多様性とその時代による変化)がみられることがその根拠。
現在の高度な文化は、「知の遺産の継承」によって達成された。

・ホモ・サピエンスに対し、原人や旧人は地理的多様性や時代的変化が薄い。知的柔軟性に欠けている。

・人類史のなかで磨製石斧が一般化するのは、農耕のはじまる新石器時代。しかし日本では旧石器時代から磨製石器が登場した。朝鮮半島といった周辺地域には出土例がなく、日本列島で独自に発達したか。オーストラリアやロシアにも旧石器時代における磨製石器の散発的な例があるが、日本は出土数で他地域を凌駕。

・1万4000年前ごろに氷期終結。しだいに温暖になり、各地の環境は大きく変化。それに応じてホモ・サピエンスの地域的多様性は増していった。

・「どの地域文化にも、ホモ・サピエンスの文化として共通要素と、独自の要素の両方が認められる。私たちの目にとまるのは往々にして後者のほうだが、これらの独自要素は、ほんとうは民族の優秀性をはかる尺度などでなく、外的因子に対する私たちの種の行動の柔軟性を繁反映しているとみなすべき。」p320