第六大陸

第六大陸
小川一水 2003 早川書房

内容、カバー裏面より

(1巻)西暦2025年。サハラ、南極、ヒマラヤ―極限環境下での建設事業で、類例のない実績を誇る御鳥羽総合建設は、新たな計画を受注した。依頼主は巨大レジャー企業会長・桃園寺閃之助、工期は10年、予算1500億、そして建設地は月。機動建設部の青峰は、桃園寺の孫娘・妙を伴い、月面の中国基地へ現場調査に赴く。だが彼が目にしたのは、想像を絶する苛酷な環境だった。

(2巻)天竜ギャラクシートランスが開発した新型エンジンを得て、月面結婚式場「第六大陸」建設計画はついに始動した。2029年、月の南極に達した無人探査機が永久凍土内に水の存在を確認、もはや計画を阻むものは存在しないかに思われた。だが、再起を賭したNASAが月面都市建設を発表、さらには国際法上の障壁により、「第六大陸」は窮地に追いやられる。計画の命運は?そして、妙が秘めた真の目的とは。

感想

解説に該当する部分に、本小説は「群像劇」である、とする指摘があったが、まさにその通りだと思う。多くの人物が登場し、それぞれある程度光を当てられ、月面結婚式場をつくるプロジェクトが進んでいく。
ただ、物語に波がないというか、山場がないというか、たんたんと進んでいくような印象を受けた。もちろんトラブルは生じるし、そこそこの葛藤もある。それを解消することによる人間の成長もある。しかし、なんとも淡泊な感じがするのだ。「劇」的要素がもの足りない、と感じたのだ。大きなプロジェクトであればあるほど、利害関係は複雑になり、いろいろな思惑が交錯する。良い人物ばかりでなく、悪意をもった人物がからんでくる可能性も高まるだろう。システムが大きくなれば、意志決定は硬直しがちだし、責任をはっきりさせるための「無駄な」仕事も人も増える。サラリーマンの悲哀ってやつである。そういう社会の複雑さが感じられない小説だった。