空対空爆撃戦隊 メッサーシュミット 対 米四発重爆
空対空爆撃戦隊 メッサーシュミット 対 米四発重爆
ハインツ・クノーケ著 梅本弘訳 原著1953 大日本絵画
内容、カバー表紙より
第二次大戦末期、米空軍の四発重爆撃機「空の要塞」B-17の密集編隊はドイツの空を覆い、昼間の精密爆撃で重要な産業施設を片っ端から廃墟にしていった。そいつ空軍戦闘機隊の決死の攻撃も、空の要塞の密集編隊から撃ち出される数百挺もの重機関銃の集中攻撃に阻まれ思うに任せなかった。ドイツ第1戦闘航空団の少尉ハインツ・クノーケ少尉は、ディーターも、捨て身の攻撃の最中に空の要塞の重機関銃に腹部を撃ち抜かれて戦死した。しかし悲嘆にくれるクノーケ少尉は、ディーターの生前のアイディア「空対空爆撃戦術」を実行に移し、見事戦果をあげた。彼は自分のメッサーシュミットMe109戦闘機で空の要塞の密集編隊の頭上に250キロ爆弾をお見舞いしたのだ。やがてこれは大口径ロケット弾を使ったより効果的な戦術に発展していった。著者ハインツ・クノーケは第二次大戦開戦の直後から終戦直前に負傷するまで、常に西部戦線の第一線で戦い、その総撃墜戦果は四発重瀑十数機を含む52機であった。本書は1952年にドイツで出版されて以来、世界8カ国でロングセラーを記録、ドイツ側から見た空中戦の戦記のスタンダードとされている。
感想
○本書は、一兵士−−といってもエースパイロットとして数々の戦果を上げ、やがて中隊をひきいるようになる人物だが−−の見た、ドイツ西部戦線の激しい航空戦闘の模様が描かれている。
○大戦の後期にいたっては、米英の重爆撃機とその護衛戦闘機が1000機という膨大な数で爆撃作戦を実行したという。まさに空を覆わんばかりの大作戦。しだいにアメリカ軍の膨大な物量に押し込まれていく様は、日本の戦記と重なる。
○エネルギーのかたまりである戦闘機を繰っての激しい戦闘。緊迫した様。特に暴力的ともいえる強大な風圧を受けながら脱出する様子が印象に残った。
○著者は何度も撃墜されているが、そのつど戦線に復帰している。それというのも、下が陸地でかつドイツ支配地域だったからだろう。この点、主として海上で激突した日本対アメリカ戦と状況が異なる。
○著者は戦争末期に大けがをし、戦域を離脱している。ドイツは敗戦国であり、戦争末期になればなるほど戦闘は不利になっていく。過酷になっていく。著者が生き残れたのも、そういう状況の中をギリギリ避けられたから、というのもいえるだろう。『大空のサムライ』で有名な坂井三郎も同様である。
○初めて空を飛んだときの純粋な興奮、喜び。
「すべてが次第に小さくなってゆき、地形のモザイクの中にとけこんでゆく、川沿いの濃い緑、牧草地の明るい黄色、風景を縦横に横切る鉄道と道路、銀色に輝くリボンは河だ、赤と黒の屋根でできたおもちゃのような町々、森、草の生えた丘のうえの空き地、要するに色々な色と形がごちゃ混ぜになった光景だった。道路には点のような車と馬車が走り、河には艀と筏が浮かんでいた。まるで鉄道模型のような汽車が、曲がりくねった線路を進んでいる、線路自体は細い虫のように見える。」
○命のやりとりを通し、操縦技量が高まっていく様子。夢のようなリアリズム。
「今やぼくは自分でも気味悪く思うほど空戦に熟達していた。まるで生まれ落ちたときからずっと空戦をしてきたみたいだ。目に見えない手に導かれているかのように、落ち着いて行動する。熱狂も功名心もない。いつもぼくは照準に敵機を捉える。敵がまるで自分から吸い寄せられるように入ってくるのだ。そして冷静に、何の感情も勝利感も交えず敵が墜落するのを見る。」