新 日本のお金持ち研究 暮らしと教育
新 日本のお金持ち研究 暮らしと教育
森剛志、橘木俊詔 著 日経新聞出版社 2009
内容、出版者ウェブサイトより
お金持ち研究第2弾! 現代日本の富裕層はどこに住み、どのような教育を受け、子をどう育て、消費や資産形成はどんな傾向にあるのか。「お金持ちはどのような人生を送っているか」に焦点を当てた興味深い一冊。
感想
・常識的な内容に終始しており、新規性がない。おもしろみがない。意外な事実が明らかになっていない。
・「お金持ち」というのは非常におおざっぱな概念である。人によっても状況によっても、その意味するところは大きく変化する。そうして変化した後でも、普通はなおおおざぱだ。「お金持ち」を真面目に考察するのであれば、きちんとそれを同定することが不可欠だ。しかし本書は「お金持ち」の定義づけ、それに対する考察をしておらず、議論の土台から全く信頼性がない。本書で定義する「お金持ち」は主として所得によっている。資産ベースで考えることと所得ベースで考えることの違いや、それらの基準となる数字についてきちんと議論もしておらず、全体的な信憑性に疑問符をつけざるを得ない。議論がすごく雑。
・論拠となるデータが少なく、「お金持ち」の生態や考えについて包括的にとらえられていない。
・言葉の使い方が甘い。例えば「疑似お金持ち」という表現がでてくる。しかしどのような条件で分類したのか、まともな情報すら提示していない(ある雑誌の読者ということだが・・・)。このようないい加減な姿勢からも、本書のいい加減さがみえてこよう。
・学力の高い公立高校の分布と高所得者の居住の分布がだいたいにおいて重なることから、高所得者の教育に対する考えを論述しようとしている。なんとも雑な議論で、素人の私でも強引さに頭がくらくらしてきた。学力の高い公立高校といえば、そのほとんどは各地域の伝統校である。古くから経済活動の盛んで交通の要所となるところにある場合が多い。まあ、便利だし、歴史的に権威のある土地に位置するわけだ。ゆえに高所得者の居住と重なるのは当然で、そこから「教育観」にしぼってデータを出したいのなら、細かなアンケート調査のうえに丁寧な統計操作を加えなければならない。本書はこれらについて一顧だにされていない。まあ、やってみたところで妥当な因果関係が出てくるかそうとう疑問であるが。
メモ
・かつての高所得者は大土地所有者やサラリーマン経営者が多かった。しかし現在では、医者や起業経営者が増えている。
・日本の株式の収益率は、極めて低い。よって他国に比して、不動産を重視して投資するお金持ちが多い。
・「権力」「富」「威信」といった基準を複数満たす上流階級は、現在では少数派。
・所得の高い人々は、自分が受けてきた学校教育に対して、その貢献をさほど評価していない。しかし自分の子供に対しては高い資金を注いで私立学校に通学させる傾向がみられる。