絶叫

絶叫
葉真中顕 2014 光文社

内容、出版者ウェブサイトより

鈴木陽子というひとりの女の壮絶な物語。

涙、感動、驚き、どんな言葉も足りない。
貧困、ジェンダー無縁社会ブラック企業…、見えざる棄民を抉る社会派小説として、保険金殺人のからくり、孤独死の謎…、驚愕のトリックが圧巻の本格ミステリーとして、平凡なひとりの女が、社会の暗部に足を踏み入れ生き抜く、凄まじい人生ドラマとして、すべての読者を満足させる、究極のエンターテインメント!

感想

・上記に引用したとおり、貧困問題を中心に多くの社会問題を扱った小説。多数のネコに食われた孤独死らしき死体、という迫力のある絵で一気に読者をつかむことに成功している。読みやすい文体ですらすら読めた。

・ラストの種明かしもなかなか衝撃的だった。たしかに、これうさんくさいなあ、と思いながら読んではいたが、きれいに伏線を回収しておとしていたと思う。

社会に振りまわされあらゆる辛酸を飲みこんだ主要登場人物が、最後に恐ろしい行動をとる。彼女に感情移入し一緒に苦しんできた読者にとっては1つのカタルシスだ。
しかしよく考えれば、彼女は周りに振りまわされつつも見方によっては主体性をもって、なかなかの行動力をもって生きていた。その集大成が最後の一手だったのかもしれない。

・小説世界内でいろいろなつながりがある。「あれこれは? 前に出てこなかったっけ?」と思ってパラパラ再読すると意外なところで登場人物たちがつながっていておもしろい。

・主要登場人物に「奥貫綾乃」という警官がいるのだが、彼女の扱いにちょっと疑問をもった。もう一人の主張登場人物「鈴木陽子」とともに内面が掘り下げられる人物である。しかし、彼女らの葛藤のインパクト、深さ、説得力ともに同じではない。鈴木陽子の方が圧倒的に大きい。
したがって、どうしても奥貫綾乃の内面描写が中途半端に思えるのだ。内面は他の人物に比べればだんぜん掘り下げられている。しかし、鈴木陽子とどうしても比べてしまう。そうすると、どうにも彼女の葛藤のインパクト、深さ、説得力に不満を感じてしまう。
奥貫については描写をスパッとあっさりにするか、あるいは鈴木と比べられるくらいのドラマを与えてもよかったように思った。

・「鈴木陽子」のパートが「あなたは・・・」と呼びかける二人称になっている。
著者が以下のように語っているが、この効果をねらったものだろう。

「どうしたら読者が、小説世界で起きることを他人事だと思わず、当事者性を失わないまま最後まで読めるかというのは、非常に気を遣っているところです。たとえば、もし自分がこの時代に生まれていたらとか、男性でも「もし自分が女の人だったら」というふうに、自分にとっての「if」として読み進めて欲しいですね。」

(「『絶叫』配信記念 作家:葉真中顕 インタビュー」、http://ebookstore.sony.jp/stc/article/interviews/akihamanaka/)

もっともこの二人称の必然性をより小説のなかでねりこめられたらよかったと思う。二人称の語り手が誰なのかラストで判明するのだが、それを元に考えると語りの内容が不自然なのだ。なぜなら、語り手は陽子のことを語っているほど深く知っているわけではないので。

・ある人物は次のように語る。
「人間って存在はね、突き詰めれば、ただの自然現象なんだ。どんなふうに生まれるか、どんなふうに生きるか、どんなふうに死ぬか。全部、雨や雪と同じで、意味も理由もなく降ってくるんだ。」p73
おもしろい考え方だなあ、と思う。人間の感情すら、進化生物学によってその不思議のベールははぎとられてきた。引用文の考え方ができれば、あらゆることを許し、すべての怒りをおさめることができそう。そういう考えを持つことで人生が豊かになるか疑問だが。