漂流するトルコ 続「トルコのもう一つの顔」

おすすめ!
漂流するトルコ 続「トルコのもう一つの顔」
小島 剛一 2010 旅行人

内容(出版者ウェブサイトより)

名著『トルコのもう一つの顔』から20年。著者渾身の続編がついに完成!
弾圧され続けた、トルコの少数民族の言語と、その生活の実態を明らかにした画期的トルコ紀行

  政府に弾圧され続けるトルコの少数民族の言語と、その生活の実態を、スパイと疑われながら、調査し続けた著者。前著『トルコのもう一つの顔』(中公新書) が、まるで推理小説
のようなスリルに満ちた物語と、著者の少数民族に対する愛情に涙が出たと絶賛され、長らく続編が待望されながら20年。

 前著でトルコを国外追放されたあと、再びトルコに入国を果たし、またもや波瀾万丈のトルコ旅行が開始される。著者の並外れた行動力と、深い知識、鋭い洞察力が生み出した画期的
トルコ紀行!

感想

○トルコには多数の少数言語があること、そしてその少数言語の弾圧が行われているトルコの実態に驚いた。しかもそれが想像以上に苛烈だった。

非情な弾圧をもって共用語を推し進めなくてはならないような「国」に意義はあるのだろうか。それが素直に思った僕の感想である。近代国家として栄えていくためには、言語の統一が大きな役割を果たしてきたことは理解する。しかしそれでも、やりようというものがあるのではないか。

○著者から繰り出される罵詈雑言がとてもおもしろい。向こう10年ぶんの罵詈雑言が本書には詰まっていた。もちろん著者のいっていることは、その方向性においては正しい。多くの人なら権力に屈してしまうところを、あるいはあきれてあきらめるところを、著者は真剣に考えているからこそマジで怒っているわけだ。そういう意味において、著者は本気でトルコの人々と、そしてトルコという国に向き合っているのだろう。

著者の名誉のために付け加えておくと、著者が罵詈雑言を向けるのは基本的に強いものに対してである。

○著者の圧倒的な言語能力と、それに基づく絶対の自信をうらやましく思った。
著者の言語能力は極めて高く、実例がうじゃうじゃ出てくるが、さらっと少数言語の民謡を編集したり辞書を作ってしまうほど。
そしてその圧倒的能力から生じる絶対的自信。

普通、自信満々の人間はただ滑稽でしかないが、著者ほど高い能力を有した人であれば、なんだかスーパーマンがばったばったと周りの人を吹き飛ばしていく物語にもみえ、爽快ですらある。
もちろんそんなスーパーマンみたいな著者も、自分の思うようにものごとを「成す」わけではない。むしろ逆である。
トルコ政府という厚くて高い壁があって、その壁をガシガシ蹴ることはできるけれども、その壁を壊せるわけではないし、乗り越えられるわけでもない。その壁は無情にそそり立っていて微動だにしなかった。

○今度はその壁をぶちこわしていく物語が読みたい。他人事のようかも知れないけれど、そう思う。