世界教育戦争 優秀な子供をいかに生み出すか

世界教育戦争 優秀な子供をいかに生み出すか
アマンダ・リプリー著 北和丈訳 2014 中央公論新社

内容、出版者ウェブサイトより

ほぼすべての子供に高度な思考力を身に付けさせている国がある。学習到達度調査PISAのデータをもとに、いま世界で、子供の教育に何が起こっているのかを追った。衝撃の報告と重い問いかけ。

感想

・内容は副題「優秀な子供をいかに生み出すか」のとおり。「教育戦争」、「優秀」といったタイトルのキーワードから、市場を自ら創造したり、グローバル企業を率いたり、学術の分野でパラダイムシフトをなすような世界最高水準の知性をもった市民をどのようにして教育していくのか、あるいはどのようにして外国から引っぱってくるのか、という内容かと思った。
しかし本書は世界最高水準の知性、トップエリートをどう獲得していくかではなく、国民全体の(批判的)思考力をどう高めていくか、というのが問題であった。もちろんどちらも重要である。国や組織を率いるトップエリートは国益に直結する。また国民全体の知性もトップエリートが活躍する下地になるうえでも、健全な民主主義を営んでいくうえで重要だ。総合的な生産性や精神的豊かさにつながる。

・本書は複数の国を比較しながら教育の問題にせまっているわけだが、各国の事情を知るにつけ教育は一筋縄ではいかないな、と感じさせられた。他の問題もそうだろうが、これだ!という唯一の解があるわけではない。あっちゃこっちゃ迷い悩みながら、未来を探っていく。けれども本書からいくつかの国の例を読んでいくと、なにがしかのヒントのようなものが見えてくる。特に印象に残ったのは、教育を尊重するする文化があるか否か。p173 これが結局のところ重要だそうだ。

しごく当たり前のことといえば当たり前のこと。だがこの当たり前のことこそが、よりよい教育の出発点になるのだろう。そしてある意味これが一番難しいのかもしれない。知識や批判的思考力の基準となる学力を大切だと考えるか否か。社会とそれを構成するひとりひとりの内面に根ざす問題だから。

・本書の特徴として、2つのアプローチからよりよい教育について迫ろうとしていることがあげられる。1つはPISA、各種学力試験、留学生へのアンケート調査により明らかになったこと。もう1つは、PISAで良い成績をおさめたフィンランド、韓国、ポーランドにそれぞれ留学したアメリカ人学生の具体的な経験である。
この2つを行き来することで各国の教育を立体的に分析し、アメリカにいかすべき部分を探っているのである。

メモ

・教育水準は良かれ悪しかれ劇的に変化する。p9

・教育で有名なフィンランド。教員になるには教員養成校に合格しなければならないが、それはとても難関。そのこともあって、優秀な人材が精選されるうえ、教員養成課程に進むことは名誉なこととされている。このことは生徒の潜在意識に働きかけられ、教員に対する尊敬の念を生み、教育の良い好循環となっている。p127など

アメリカの場合、需要の2.5倍の教員を養成している。そのため教員養成課程の敷居が下がっている。その水準の低さにより、教員という職業そのものの品格も下がっている。教員は知性を要する職業として重んじるという発想が欠けている場合が多い。p127、p137
(スカイコミュ注:日本も同じだ。)

PISAの調査によって明らかになった、親にできることで効果の大きいこと。
 ・・日々の読み聞かせ
 ・・家庭で社会問題を話題にすることp161

・「効果的な褒め方は、具体的で、正確で、回数も少ないこと」

ポーランドは1997年以降の教育改革で、成果に対する説明責任を厳格化。ただ成果を上げる手段については大幅に自立性を認めることにしたp198。この改革は成果を上げた。

・日本や韓国、フィンランドなど、教育で高い成果を上げている国々には今後の進路に大きな影響を与える厳格なテストが実施されている。p230

・「今や、学びは通過の一種になっている。普通のお金とは違う、自由を買い取るための通過である。」p286

・すべての子供たちに高度な思考を身につけさせるためには、学校のなかに真剣かつ知的な文化を築きあげることが重要。p296