冒険投資家 ジム・ロジャーズ世界大発見

冒険投資家 ジム・ロジャーズ世界大発見
ジム・ロジャーズ 著 林康史,望月衛 訳 2003(原著も2003) 日経新聞

内容、出版者ウェブサイトより

バイク初の「6大陸横断」男が、今度は特注の黄色いベンツで挑む、116ヵ国・24万キロの旅。戦乱、砂漠、ジャングル、そしてロシア・マフィアからイグアナ料理まで、危険いっぱい・魅力たっぷりの冒険旅行。

感想

○原著と同じ時期に訳書を出している。出版社はよくアンテナをはっていたんだろう。計画的でもある。

○飛行機ではなく「車で」、という厳しい条件で世界旅行に挑んだ、投資家の記録。有名な投資家ということで、ちまたによくあるような、金はないが持ち前の明るい人柄と楽天的な性格、著しい行動力、運で世界をおし通る!、といった旅行話ではない。行動力はバリバリあるが、お金もいっぱいあるし記録を残すための随行員もいる。ただ、本書の特徴といえるのが、著者ジム・ロジャーズ氏の責任ある大人としての慎重な行動と、投資家として各国の国情をつかみその将来性を評価する記述にあると思う。

 本書を読んでいて、投資というのはその国(地域)の可能性をみることだと感じた。著者は、現地の人と話したり、マーケットや国境管理での役人の対応(賄賂を要求しない? 手続きは煩雑でない?)を観察することで得た旅先の国情を整理したあと、しばし投資を検討してみせる。そこで印象的だったのは、あたりまえかもしれないが投資の対象として適した地域は必ずしも発展しているところではない、ということだ。むしろ種々の困難を乗り越え、さあ、これから発展するぞ!、その可能性を冷静に見極めているのだ。
 争いはきちんと解決したのか?、汚職は蔓延していないか?、非効率的な規制は廃されているか?等々、その検討の先に、著者はしばしその国(地域)に可能性・将来性を見出す。
 ある対象の可能性を評価し見出すことこそが「投資」なのか、このことに気づかされた本だった。そう考えると、投資ってなんだか夢があるんだなあ、と感じたしだい。

○非効率的で硬直的で無駄に金を使うだけでなく、自由な移動や取引を阻害までする官僚組織に対する不満が、随所に述べられている。
蔓延する汚職に対する不快感も。

○著者は自由であることと、競争がしっかりはたらいていることを、豊かな社会を導くものとして強く肯定。

○アフリカを旅したときの記述で、アフリカ諸国が援助づけになっている様を明らかにしている。多大な援助により、一部の国では、人々の働く意欲と仕事の知識・技術が奪われている、という。物をつくらなくても修理しなくても、援助によってどうせただでもらえるというのだ。さらに、そこによからんNGOが自分たちの仕事ほしさにつけこんでいるとも。
 筆者はこのアフリカの状況に対し、アフリカが抱えたこれまでの負債を免除するとともに、援助も思い切ってやめるべきだ、と提言している。著者は思いきって表現しているのだと思うが、基本的な考え方自体は重要なことを指摘している、と思う。

○世界中の国や都市、各種遺産を見てまわった著者。最後には、文明や都市の栄枯盛衰、浮き沈みの世と、そのなかでもたくましく生きてきた人々、生きていく人々を見出している。なんだかぐぐっと視点がもちあげられた感。4000年近い人類の生き様をぐるぐるポンとひとまとめにすると、こんな感覚になるのだろうか。

アメリカは他国に介入しすぎ、と指摘。金を無駄遣いしているうえ、敵意まで得てしまっている、とのこと。
うなずける面もあるが、自力で巨万の富を稼ぐ投資家らしい見方といったところか。長い目で見ると、ハードパワーからソフトパワーまで含めたアメリカの影響力で市場が拡大している、そのおかげで投資家は巨万の富を得ていると思うのだけれど、その点どう思うのだろうか。

メモ

「世界の半分を回ってみてきたように、今、海外援助のほとんどは外部コンサルタントや地元の軍部、腐った役人、新しいNGOの代表者、そしてメルセデス・ディーラーの懐に収まっている」
(スカイコミュ注:メルセデスを例にあげているのは、権力者御用達の高級車として世界中に販売網をきずきあげたからであるが、自分がそれに乗っているからということもあるだろう。メルセデス社が他者に比べ暴利をむさぼっている、とする指摘はとくになし。)